11.恥ずかしい
今日は久しぶりに、ゴールドさん達、三人の元冒険者が遊びに来てくれた。
三人が手土産として持ってきたのは、お米や野菜などの農作物だ。
最初、この街で畑を作るのは難しい。って言われていた。
その理由は、中心部は特に魔力が濃過ぎるから。
普通の食物は魔力濃度が高いだけで弱って、育たなくなっちゃう。
もし育ったとしても魔力が宿る。純度の高い魔力を直接取り込むのは、人間にとって毒だ。食べたら頭痛や嘔吐、発熱などの異常が出て、最悪取り込み過ぎると死に至る。
でも、人間やドワーフ族は何かを食べないと死んじゃうから、協力してどうにか成功させたみたい。
今日は、その報告に来てくれたんだって。
ゴールドさん、ギードさん、トロネさん。
すごく久しぶりにこの三人と落ち着いて顔を合わせたから、ちょっとだけ懐かしい。
三人はそれぞれ楽な姿勢で座ってもらっている。
トロネさんは私を抱きしめたいと思っていたみたいで、ずっと後ろから私を抱きしめる形でいる。たまに頭を撫でられるけど、嫌だとは思わない。むしろ気持ちいいから、もっと触ってほしいかも……。
でも、ちょっと背中が硬いな。
そこだけが少し残念かも。
「それにしてもクレア様のお部屋、かなり変わったわねぇ」
トロネさんは部屋を見回して、そう言った。
前に来た時は何もない質素な部屋だったから、その変わりように驚いているみたい。
最初は私も驚いたけど、さすがにもう慣れた。
「ん、ガッドさんが作ってくれた。ベッド、お気に入り」
「ドワーフ族の? へぇー、ドワーフ族は頑固者だって聞いていたのに、もう仲良くなっているなんて……クレア様は凄いのね!」
「みんな、良い人だよ?」
「それは当然よ。私も含めて、みんなクレア様が大好きだもん。クレア様に優しくするに決まっているわ!」
「………………ん……」
面と向かってそう言われると、恥ずかしい。
「照れてるクレア様、可愛い……!」
ぎゅー、ってされる。
ちょっと苦しい。あと後頭部が痛い。
トロネさんは大人の女性なのに、変なの。
「おいトロネ。あまりクレア様に迷惑は……」
「大丈夫。全然嫌じゃないよ?」
「……だが、」
「もうっ! ゴールドはうるさいわね! ぐちぐち言って、それだから彼女の一人も出来ないのよ!」
「は、はぁ!? それは今言わなくてもいいだろ!」
ゴールドさん、彼女居ないんだ……。
「…………な、なんだよ……」
見つめ過ぎちゃってたみたい。
視線に気がついたゴールドさんは、なぜか微妙な顔をしていた。
「ゴールドさん、彼女欲しいの?」
「なっ! それ、は……」
「欲しいの?」
「……………………」
「欲しいの?」
「…………ああ、もうっ! 欲しいさ! そりゃ男だからな! 欲しいに決まってんだろ!」
おお、迫力がすごい。
「ギードさんも?」
「へ!? そ、そりゃぁ……勿論! 欲しいに決まってますよ!」
ギードさんも欲しいんだ。
やっぱり、男の人ってそういうものなのかな?
「…………じゃあ……後悔、してる?」
「「はぁ?」」
「この街、人間少ない。……彼女、たぶん作るの、無理」
この街の住民を割合で例えるなら、魔物が9割だ。
人間は同じ人間と付き合いたいって思うはずだから、二人の願いは叶えられないかな。
簡単な話、人間をいっぱい取り込めば男女関係の問題は解決できる。
でも、それは出来ない。
人間と魔物の溝は、まだまだ深い。
急に沢山の人間を連れてきたら、みんなが驚いて警戒しちゃう。
そしたらどっちも安心して過ごせなくなるから、それは絶対にダメだ。
もしかしたらこの街の人達の生活を縛っているかもしれない。
そう思うと……申し訳なくなる。
「はぁ、あのな……それは間違っているぞ?」
「え……?」
「いや、彼女が欲しいのは本当なんだが……それよりもクレア様のために生きたい、ってのが一番大切だ。この街にいるのは楽しいよ。だから『後悔』なんて言葉は使わないでくれ。…………クレア様?」
ゴールドさんの顔を、見れなくなった。
…………ダメだ。
面と向かって言われるのは、やっぱり恥ずかしい。
「あーぁ、ゴールドったら、そんな臭いセリフ言っちゃって……はっずかしぃ」
「……やめろ。自分で言っておいて、今更恥ずかしくなってきた」
ううん、恥ずかしくないよ。
かっこよかったよ。
だって、今の言葉はすごく──嬉しかったもん。
「…………ありがと、ぅ」
だから、これだけはちゃんと伝えたかった。
でも、もう言わない。
…………恥ずかしいもん。
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