10.素敵な物
目覚めた時、私はまた別の場所に移動したのかと思った。
布だけを敷いていた寝床は、とても大きな天蓋付きのベッドになっていた。
ブラッドフェンリル全員が乗っても余裕がある広さで、すごく……ふかふか。ここで眠れば何ヶ月もずっと眠り続けられる自信がある。
変わったのはベッドだけじゃない。
室内には沢山の家具と小物が置かれている。
何もない質素な空間は、とても華やかなものに変わっていた。
寝起きだったせいもあって、一瞬頭の中が『???』で埋め尽くされたくらいには、見慣れない光景が視界に広がっていた。
だから、場所が変わったのかなと思ったけれど……それは間違いだった。
壁や天井は私の知っている模様だったし、窓から見える景色も変わっていない。
私が寝ている間に、改装した……?
『おはよ、姫様。よく眠れた?』
「おはよう、ローム。……うん。しばらくは、満足」
クロなら、何か知ってるかな。
……クロは? クロはどこにいるんだろう?
『クロを探してるの?』
「ん、この部屋のこと……何か知ってるかな、って」
『あー、これね。やっぱり姫様も驚いた? 俺も初めて見た時はびっくりしたよ。まさか一晩で改装されるなんてね』
みんながこっそり計画して、私が寝ている間にプレゼントしてくれたのかと思ったけれど、ロームも知らなかったみたい。
それに、一晩……?
こんなに広い部屋を一晩で改装するなんて、大変だったよね。
「クロ。クロ〜」
一先ず、呼んでみる。
『呼んだか、主』
その間、一秒。
相変わらず速い。
「おはよう、クロ。……これ、どうしたの?」
『おはよう。これはガッドからの贈り物だ』
予想外の名前が出てきた。
ガッドさんからの贈り物……なんで?
『主に何かプレゼントをしたいと、彼から急に相談を受けてな。主が喜びそうなものは限られているから、これを機に質の良いベッドを作ってみたらどうかと提案してみたのだ』
「私が、喜ぶもの……」
羽のように柔らかいシーツを何度も押す。私の手は抵抗なく沈んだ。
「………………」
『あ、っと、その……迷惑だったか?』
私が何も言わなかったから、不安になったみたい。
違うよ。
怒っているわけじゃないよ。
「嬉しい、すっごく……嬉しい」
今まではブラッドフェンリルをベッド代わりにしていたけれど、たまに床が固いなぁ……って思う時は何度かあった。
もう、それを思うことはなくなった。
こんなベッドが欲しいなと思いながら、我儘はダメだってずっと我慢していたもの。
一番の贈り物だ。
「ありがとう、クロ。」
『喜んでもらえたなら、頑張った甲斐があるというものだ。……だが、その言葉は』
「ん、ガッドさんにも必ず言う」
でも、どうやって伝えようかな。
ガッドさんはドワーフ族の代表で忙しいから、今呼び出すのは迷惑だよね。
お仕事が終わった時に来てもらう?
…………それまで起きていられる自信ない。
「あ、」
いい方法、思いついた。
「クロ。紙と書くもの、ある?」
『む? それくらいならあるが、何に使うのだ?』
「ガッドさんにお手紙、書くの。ありがとうって、伝えるために」
『っ! そ、そ、ぅか……それはうらやま──じゃない。ガッドも喜ぶ、だろう、な……』
昔、私がまだ屋敷にいた時。
私がずっと眠っていて、あまりパパと会えなかった時に、パパはお手紙を書いてくれた。私が起きた時に楽しめるようにって、沢山の面白いことを書いてくれたんだ。
私もそれを使えば、直接会えなくてもガッドさんに私の言葉を伝えられると思った。
「…………でも、なんて書こう?」
『悩む必要はない。主の思った通りのことを書けばいい。ありがとうの言葉だけでも、我々は十分に嬉しいのだからな』
流石に「ありがとう」だけだと、申し訳ない。
だって、こんなに素敵な贈り物をくれたんだもん。もっとちゃんと書かなきゃ。
そう考えて、私はすごく久しぶりに文字を書いた。
字の練習をしていなかったせいで、下手くそな文字になっちゃったけれど……気持ちが伝わると嬉しいな。
「クロ。これ、届けて……絶対だよ」
『承った。ガッドに届けるまで、この手紙は死守しよう』
「流石に、そこまではしなくて、いいよ?」
クロはいちいち、大袈裟な言い方をする。
でも、クロなら絶対に届けてくれるって信じているから、安心してこのお手紙を預けられる。
「…………ん、んん」
一仕事終わったら、また眠くなっちゃった……。
きっとこのベッドが気持ちいいから、今まで以上に私の眠気が強くなったんだと思う。
本当に、良い物を貰えて嬉しいな。
私は瞼を閉じて、ふかふかのベッドに横たわった。
今日も良い夢……見れそ、ぅ…………。
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