27.審問(ゴールド視点)


 長い道のりを歩く。

 その度に体が軋み、堪え難い苦痛が襲ってきた。


「早く歩け、この罪人が!」


 俺達を連れて歩く兵士は、わざと遠回りをしているのだと分かった。

 あえて無駄に歩かせることで俺達を疲れさせ、正常な判断ができないように追い詰め、情報を吐き出させようとしているんだ。


 人間ってのは、ここまで残酷になれるものなんだな。

 …………なんだよ。これじゃあ魔物の方が何倍も優しいじゃねぇか。


 捕虜として迎えた人間に与える普通の食事。

 日常生活を送る上で不自由のない物資と住居。


 どれも、人間の国では考えられないことばかりだ。


「すまねぇな、二人とも。こんなことに付き合わせちまって」

「何言ってんですか。こうなると分かっていても、ここまで付いて来たのは自分の意思っすよ」

「今更水臭いこと言ってんじゃないわよ。ギードの言う通り、これは私が決めたことなの。後悔するわけないでしょう?」


 仲間ってのは、いいもんだ。

 俺は最後の時まで、こいつらと一緒にいられて本当に良かったと思っている。


「ほら! さっさと歩け!」


 背中を押され、歩き出す。

 一歩、また一歩。すでに限界を迎えていた体では、階段を一段登ることさえ難しかった。


 止まったら更なる苦痛を与えられる。

 だから、俺達は歯を食いしばって歩き続けた。


「…………他の奴らには顔向けできないな」


 不注意で捕まって、森の魔物との関係性を疑われて、勝手に死んでいく。

 これ以上なく、足を引っ張ってしまった。


「貴様らは聖教会にて審問を受ける。その場で罰も受けることになるだろうから、今のうちに懺悔しておくことだ」


 やっぱり俺達はただの人間だった。


 そうだ。あいつらは強力な力を持っている。

 向こうにはクレア様だけじゃなく、頼もしい総司令だっているんだ。


「ほら着いたぞ。中に入れ!」


 聖教会の最奥、普段は重く閉ざされている扉が──重厚な音を立てて開いた。


「…………ははっ、国家戦力の勢揃いってか……」


 議席に座っている国の重鎮達。

 その後ろには、これでもかと騎士や兵士が配備されていた。


 俺達の仲間は、ひどく警戒されているらしい。

 それもそうだ。送り込んだ騎士が見るも無残に壊滅したのだから、警戒して国家戦力の大半をここに置くのは当然のことだろう。


「……望みは薄いな」


 この数を相手に逃げ切ることは不可能だ。

 今が絶好調だったならまだしも、数日に及ぶ拷問で体の節々を破壊された状態でこれじゃあ、流石の俺達も諦めがつくってもんだ。


 だが、不思議と悲観はしていなかった。


 あの街で俺達は十分に楽しめた。

 今更、俺達が居なくなっても問題はない。


 シュリとロームは逃せた。

 クレア様の棺桶も託すことができた。

 あの街のことは最後まで言わずにここまで来れた。


 俺達がやれることは、もう終わったんだ。


 ──だから、きっと大丈夫だ。

 そう思うと、少しは気が楽になった。




『たとえそうだとしても、我らの主は悲しむだろうな』




 声が聞こえた。

 その瞬間、隙間風すら通らない密閉空間の中で突風が吹き荒れた。


『助けに来てみれば、何を弱気になっている? 貴様ら』

「っ、クロ!?」


 風になびく、黒くて美しい体毛。獰猛に唸る声からは怒りの感情が窺えて、限界まで釣り上げられた瞳は周囲の生き物全てを圧倒する威圧感を放っていた。


『遅れてすまない。もう大丈夫だ』


 人を丸呑みしてしまうほどの巨体。


『もうあんな醜態は晒さないわよ! 覚悟しなさい!』


 岩さえも軽く噛み砕いてしまうほどの牙と、鋭い爪。


『今度は俺達が助ける番だ。人間相手に後れは取らないぜ!』


 堂々とした様でその場に立つ、強者の風格は──まさに『神話』を生きる存在。



『主の命により助けに来た──我らが同胞よ』


 魔物の街の最大戦力──ブラッドフェンリルがそこに集結していた。

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