26.囚われの冒険者(ゴールド視点)
「判決が下されるまでここに入ってろ、この反逆者ども!」
兵士にそう言われ、俺達が王城地下にある牢獄へ入れられてから──いったいどれくらいの時間が経っただろう。
俺達はモラナ大樹海に発生した未知の魔物を連れていたことで兵士達に取り囲まれ、この地下牢に投獄された。
どうやら、この国の奴らは何らかの方法を使って、魔物達の情報を得ていたらしい。反逆者の罪を被せられた俺達は、ありとあらゆる拷問を受けた。
だが、俺達は決して口を割らなかった。
それはクレア様や他のみんなに対する裏切りになるからだ。
仲間を裏切るくらいなら、拷問されるくらいどうってことない。そう思って我慢し続ける中、内心、俺はずっと同じことばかりを考えていた。
共について来てくれたシュリやロームは無事だろうか。
別れ際、どうにか託すことができたクレア様の棺桶は大丈夫だろうか。
──街のみんなは、まだ安全だろうか。
もはや日課と化した拷問が終わり、飯とは言えないような腐りかけの不味いパンを食わされ、動く気力が湧かずに薄暗い牢獄の壁を見つめていると、ふとした時にそのような不安が頭を過る。
「大丈夫よ、ゴールド」
俺の様子を悟ってくれたのだろう。
仲間のトロネは、弾んだ声でそう元気付けてくれた。
そんな彼女に同意するように、ギードもうんうんと頷いている。
「そうっすよ。シュリさんとロームさんなら無事に逃げ延びれたはずっす。ミルドの旦那も、もう現役を引退しているとは言え十分に強い。きっと無事に辿り着けたはず……気長に待ちましょう」
だが、そんな二人も無理していることは明らかだった。
それでも大丈夫だと言ってくれる。
『お前らは嘘を言うような奴らじゃないと信じている。後は任せろ。必ず、助けを呼んでくる。……必ずだ』
…………ミルドさん。
咄嗟だったのにも関わらず、詳しいことは聞かずに協力してくれた。
今頃、彼は無事にあの森へ行き、街に入ってクレア様と話せていることを願う。
「クレア様との約束、破っちまったな……」
──街の情報は決して漏らさない。
これは魔物達の間で囁かれる『絶対遵守の掟』だ。
俺達はそれを破った。
罰を受ける覚悟はできている。
「あっしらも同罪です。罰なら一緒に喰らいましょう!」
「そうよ。元はと言えば私達の不注意が招いたことだもの。これでお咎めなしだったら、むしろ他のみんなに申し訳なくなるわ」
「……お前達……ああ、そうだな。無事に帰ることができたら、三人でクレア様に謝りに行こう」
改めて考えてみると、随分と絆されたもんだ。
俺達が魔物の味方をするなんて、今でも信じられない。
だが、クレア様になら良いかなと思ってしまう。
彼女は吸血鬼だ。
魔物の中でも最上位の強さに入ると言われ、単騎で国一つの最大戦力と互角にやりあえる力を持っている。
俺達も過去に一度、運悪く吸血鬼と遭遇したことがある。
その時は全力で逃げた。全力を出し切れば、逃げ延びれるだけの余裕はあった。
しかし、クレア様は無理だ。
実際に吸血鬼を見たことがある俺達だから確信を持って言える。
あの御方は──たとえ世界が立ち向かっても勝てっこない。
絶対強者。
魔物を統べる王。
人間の力では決して対抗できない存在が、クレア様だ。
だが、勘違いしないでほしい。
勝ち目がないからと、仕方なく従っているわけではない。
彼女の出す空気は、こう……不思議なんだ。
近くに居るだけで心が休まる。
彼女が居ると頑張れる気がする。
話しているだけでその日の疲れが消し飛ぶ。
一緒に居れば居るほど、その気持ちは大きいものになっていた。
眠ってばかりで色々なことは配下に丸投げをしているクレア様。
多くの配下の上に立つ者としては減点される印象しかない彼女だが、根は誰よりも優しく、誰よりも平和を愛している。
……まぁ、それでもやっぱり寝ている印象の方が強いんだが、魔物にも人間にも心優しい彼女だからこそ、俺達は彼女の下で働こうと決めた。それは他の魔物だって同じ気持ちのはずだ。
「ハハッ、本当に不思議な御方だな……」
こうして彼女のことを考えただけで、どうにかなるんじゃないかと思ってしまう自分がいる。
「…………来たか」
兵士の足音が聞こえた。
一人ではない。かなりの大人数だ。
そいつらは厳重な武装を身に纏い、俺達の牢を開けた。
「出ろ。これより審問会を始める。一応言っておくが、抵抗しない方が身のためだぞ。少しでも罪を軽くしたければ、な……」
元より死刑を下すつもりのくせに、何を言ってんだか。
内心、俺はそう溜め息を吐き出した。
だが、そうか……。
俺達はどうやら、もうダメらしい。
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