16.有効活用
魔物達の争いは、朝になるまで続いた。
配下の魔物達は街の守りを固め、襲撃者を誰一人として入らせないよう常に周囲を見張り、襲撃した魔物達との睨み合いがしばらく続いたみたい。
でも、その睨み合いは……いや、その戦いは唐突に終わりを迎えた。
互いに動かず、ずっと睨み合っていれば、いつかは必ず集中力が切れて注意が疎かになる。
襲撃者側がそうなった一瞬の隙に、ブラッドフェンリルのクロとロームが2騎だけで敵陣に乗り込み、あっという間に敵側のリーダーを瞬殺。
リーダーを失った魔物達は一気に統率が取れなくなって浮き足立ち、そこで待機していた配下達が突撃。
抵抗する魔物は皆殺し。
他の魔物は臆病だったみたいで、すぐに逃げちゃったんだって。
深追いは危険だと判断したクロは、全ての味方を下がらせて、今は後処理に追われているみたい。
「…………うん、報告、ありがとう。三人とも」
報告をしに来てくれたのは、元冒険者の三人。
名前は……なんだったっけ。教えてもらった時は凄く眠かったから、忘れちゃった。
どうして彼らが報告に来たのかと言うと、理由は彼らが元冒険者だったから。
三人は冒険者として長く活動していたみたい。
そのおかげで戦い慣れているから、誰よりも戦況をよく理解していた。
だからクロが手放せない今、何があったかをわかりやすく説明できるのはこの三人だと、今回だけは特別に報告係を任されたらしい。
「三人に怪我は、なかった?」
「クレア様の心配には及ばないさ」
「私達はまだ戦わせられないって、後方待機だったので」
「ええ、ウチらは安全そのものでしたよ」
「…………そう。なら、よかった」
この三人とは、まだ『血の契約』をしていない。
この街で、彼らだけは私の影響下になかった。
傷もすぐに癒えないし、死んだら終わり。
元よりも強化はされていないし、いくらか戦えると言っても、契約して力が大幅に強化された魔物よりは弱い。
彼らは人間だけど、もう私達の仲間だから……死んじゃうのは悲しい。
だから、あまり戦闘には参加しないようにって、クロが気を使ってくれたみたい。
「それじゃあ、俺達はこれで」
「あ、待って……」
報告を終えて帰ろうとしたリーダーさんを呼び止める。
正直、今とても眠い。
このまま寝てしまいたいけれど、聞きたいことが一つだけあるから、今だけはまだ我慢。
「……なんだ?」
「少し、聞きたいことがあるの」
「聞きたいこと? 俺達が答えられることなら別に構わないが……」
「うん、冒険者だった三人に聞きたい。死んだ魔物の素材、どうしたら、いい?」
襲撃して来た魔物達は、逃げた魔物以外は全員殺したと聞いた。
まだ色々と後処理をしている中だから、魔物の死体は残っているんじゃないかな。
でも、その魔物達をどうやって処理すればいいか、私はわからない。魔物達も、ただそこら辺に捨てておけばいいだろうって、考えていると思う。
「それでも問題ないだろう?」
リーダーさんが言うことは、正しいのかもしれない。
魔物にとって、他の魔物の死体なんて意味のない物体。
邪魔だから適当な場所に捨てておけばいいだけの、その程度の価値しかない。
「でも、それでも死んだ魔物。無駄にはしたくない」
さっきの戦いで、かなりの数の魔物が死んだと思う。
その素材を全部捨てちゃうのは勿体無い。
この前、クロが『建築の材料が足りないんだ』って困っていた気がする。
何か、素材を使って有効活用できる方法はないかな。
そう伝えると、リーダーさんは顎に手を置いて考え込んだ。
「…………一番いいのは、売却だな」
「素材を売るってこと?」
「そうだ。どうせ捨てるのなら、金にしちまう方が何倍もマシだろう? そしたら不足している材料も買える。ここに来る前に見てきたが、相当な量の魔物が死んでいた。それを全部売ることができたら、当分は材料に困らないはずだ」
「……でも、素材を買ってくれるような人は、この街にいないよ?」
それに、建築に必要な材料を売ってくれる人も。
やっぱり、有効活用はできないのかな……。
「だったらよ。俺達を信じてくれねぇか?」
リーダーさんは真剣な表情で、そのような提案をした。
「俺達が魔物の素材を人間の国で売って、その金でこの街に必要な物を買い揃えてくる。それなら、クレア様の考える有効活用になるんじゃないか?」
「三人が人間の国に行って、他の物を買ってくる? でも……」
「俺達が信用されていないのは十分に理解している。だが、方法はそれしかないと思うんだ」
私は考える。
三人のことをまだ信用したわけじゃない。
でも確かに、その提案はいいものだと思う。
魔物の素材を売れば、お金になる。
人間は、普通の動物よりも頑丈な魔物の素材で装備を作るって聞いた。
だから人間にとって、魔物の素材はかなり必要なはず。
大量に売れば、お金がいっぱい手に入る。そのお金で街に足りないものを買い揃えれば、この街にとっても利益になる。
──でも、クロがそれを許すかな。
クロは特に、この街のことを第一に考えている。
まだ信用しきれていない三人を街から出すことを、許すとは思えない。
たとえ私の言葉だったとしても、否定するはずだ。
「……ごめんなさい」
その言葉に、三人の表情に影が落ちる。
「まだ三人を信じることはできない。……けど、その提案はとてもいいと思う。…………だから、クロに提案してみて。それでクロを納得させられたら、私は三人の外出を許す」
影が落ちた三人の表情が、途端に明るくなった。
「いいのか!?」
「うん。でも、ちゃんとクロにこのことを言って。……シュリ、ラルク」
『はぁい。どうしたの?』
『クレア様。なんでしょう?』
「この三人の味方をしてあげて。二人の言葉なら、クロも無下にしないと思うから」
三人だけが意見を言っても、多分クロは話を聞かない。
でも、同じブラッドフェンリルの二匹から後押しされたら、きちんと意見を受け止めて、真剣に考えてくれると思う。
『いいわよぉ。私も、その有効活用の意見には賛成だからね!』
『俺も構いません。他ならぬクレア様のお願いなのですから』
「うん。ありがとう」
私は、この街の居心地がもっと良くなってほしい。
もっともっと平和になって、この先も争いなんか必要ない場所になれば、ずっと私は、静かに眠れるだろうから。
「クレア様! 感謝する!」
「ありがとね、クレア様!」
「ちゃんと成果を出すので待っていてくだせぇ!」
感激した様子の三人に囲まれる。
ブラッドフェンリル以外に触れるのは久しぶりで、ましてや人間に触れるのは初めてのことだったから、少し驚いてしまった。
でも、こうして感謝されるのは悪くないかも。
囲まれて感謝されている中で、私はそう思っていた。
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