8.街が出来てた
私が眠っている間、私の周囲はとても平和だ。
何も問題は起こっていないようで、傘下に加わった魔物達の住処も順調に作られているみたい。
でも、もう私達の住む場所は『里』じゃなくて、『街』と呼べるくらい大規模なものになっているらしくて、木を切り倒して住処を拡大しなきゃいけないから大変だって、クロが言っていた。
魔物の長として意見を聞かせてほしいって言われたから、仕方なくクロに運んでもらって街を観光させてもらったんだけど……それを見た時の第一声は「なんで?」だった。
理由は、想像以上に発展していたから。
街と言っても作るのは魔物だ。昔、本で読んだ人間の街とまではいかないんだろうなぁ……って思っていたら、それを越える大規模な街が眼下に広がっていた。これはもう『都市』と言っても言い過ぎじゃないと思う。
どうしてこうなったのとクロに聞いたら、前に引き入れた魔物達が原因だって言っていた。
直接彼らが何かしたわけじゃなくて、あの三種族が私の傘下に入ったことを知った他の魔物達が、どうか自分も傘下にと押し寄せてきたみたい。
…………そういえば、そんな話をしたような気がする。
その時は寝起きで頭が回っていなくて、適当に頷いていたけれど、まさかこんなことになっているなんて……。これからはクロの相談はちゃんと聞こうって思った出来事だった。
そんな訳で、私が寝ている間に凄い規模になっていた魔物の街。
魔物の数はすでに『千』を超えていて、なかなか完成しないんだって。
建物の組み立ては人型の魔物であるゴブリンやオーク達がやってくれているから楽だけど、周囲の安全確認とか、現場の指示とかはブラッドフェンリルがやるからいつも大忙しだって言ってた。
だったら私なんかに構ってないでゆっくり休んでいいよ、と言ったんだけど、それだけは絶対に嫌だって、みんなが言うんだ。
私と話せることがご褒美だって言っていたけど、意味がわからなかったし眠かったので、その時は曖昧に返事した気がする。その後のクロは妙に興奮していたけど、何か嬉しいことがあったのかな。
街のことで忙しくさせてしまっているのは申し訳ないと思うけれど、それでもクロ達は一生懸命やってくれているし、むしろやらせて欲しいとお願いされるので、私は好きにさせている。
でも、それでいいと思う。
何かを命令するのは好きじゃないし、それで縛るのも好きじゃない。
みんなには好きに生活して欲しいと思っている。
今、私達の街には沢山の魔物が住んでいる。
各種族の考えとかあるから、全員が仲良くなるのは難しいかもしれないけど、それでも平和に共存できるなら嬉しい。
街の代表としては失格なのかもしれないけど、それでも魔物達は私を信用してくれている。皆、私のために安息の地を作ろうと頑張ってくれている。
だから 満足している。
結局、私は眠ることさえできれば、それでいいのだから。
──そう思っていたんだけど、私の周囲はそれを許してくれないらしい。
『人間が森をうろついているようだ』
そのような報告をクロから聞いた私は、むくりと体を起こした。
「……何か、問題があるの?」
人には、魔物を狩る仕事があるって聞いたことがある。
それは私達『吸血鬼』も討伐対象になるから、絶対に人と会わないようにしろって、パパが言っていた。でも、もし会ってしまった時は、一見すると吸血鬼は人と見た目がほぼ変わらないから、焦って敵対せずに正体を隠し続けろとも教えられた。
……ちょっと話が逸れちゃったけど、人は魔物を狩ることでお金を稼いでいる。
それに対して思うことは、特にない。
魔物を狩ることは、人間にとって生きる上で大切なこと。それに、必要なら私達だって同じようなことをする。だから、魔物を狩る人達に怒るようなことはしない。
でも、この街に住む魔物だけは狩らないでほしいと思うのは、私の我が儘なのかな……。
「森、魔物いっぱい住んでる。だからお金を稼ぐために、人間が入っていること、変じゃない」
『それは理解している。冒険者なる者共は、我らのような魔物を狩ることを生業としている。だが、今回の人間は少し違うらしいのだ』
「違う……? 何が?」
こてんっ、と首を横に倒す。
何が違うんだろう?
『まだ詳しいことは判明していないが、魔物を狩ることを目的としていない様子だったと、報告が入っている』
「魔物を狩ることを、目的としていない……?」
『ああ、魔物が襲いかかれば応戦はしているが、なぜか何日も森に留まり、徐々に奥の方に向かって来ているらしいな。格好も鎧を着ている者達ばかりだと報告を受けたので、おそらく王国騎士ではないかと思っている。その者達と離れたところに冒険者らしき人間が三人居るが、一向に接触しようとしないことから、仲間ではないようだな』
「……目的が、わからない」
『そう。目的がわからない。だから頭を悩ませているのだ』
その冒険者はお金を稼げれば、すぐに拠点に帰るのに、人間達は何日もこの森に滞在して、しかも王国騎士らしい格好をしている。
目的は何だろう?
狩ることが目的じゃないのは、多分間違いない。
だったら、他にこの森に何の目的があるんだろう?
…………やっぱり、わからない。
私は考えることがあまり得意ではない。
だから、彼らの行動理由が全くわからない。
「魔物達には、接触しないように言っておいて」
面倒事は避けていきたい。
巻き込まれて騒がしくなるのは、私が望んでいることじゃないから。
『では、魔物達にはそのように伝えておこう』
その言葉に、私は頷く。
『人間が何をしでかすかわからない。主も十分に気をつけろ』
「私は大丈夫だから、みんなが気を付けて」
私と契約した魔物は以前よりも強くなっているし、主である私が死なない限り、魔物達も死ぬことはなくなった。
でも万が一ということもあるから、なるべく人間とは関わらないようにしてもらいたい。
それを理解してくれて良かった。
「何かあった時は、クロに任せる」
『光栄だ。では……』
クロが出て行く。
残ったのは、私とブラッドフェンリル。
今日の担当はロームという名前の、少しおちゃらけた性格の子だ。
「……なんか、大変そうだね」
『クレア様は気にしなくていいよ。俺達が絶対に守ってあげるからさ』
口調は軽いけれど、この子達なら絶対に守ってくれると信頼しているから、その言葉をとても嬉しく思う。
「うん、ありがとう。……でもね。私がみんなが傷付くのも嫌、だから……あまり危険なことはして欲しくないって、思うの」
『……クレア様は優しいね。やっぱり俺は、クレア様のことが大好きだ』
「私も、みんなが大好き……」
ロームは顔を下ろし、私の頬に擦り寄せてきた。
顔にもいっぱい毛があるから、もふもふしていて気持ちいい。
「……ふ、ぁ……ぁぁ……」
ロームの頭を撫でていたら穏やかな気持ちになって、あくびが出てしまった。
『今日はもう寝る?』
「…………うん……」
ゴロンと寝転がり、ロームのお腹に埋まる。
クロから聞いた話は、気になる。
でも、人間達の目的がわからない今、余計な手出しをするのは危険だと思う。だから、わたし達はいつも通り、平和に生活するだけ。
──何か判明した時は、クロが何とかしてくれる。
そう信じて、瞼を閉じた。
『おやすみ。俺達のお姫様』
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