3.知らないところだった
次に私が目を覚ましたのは、見知らぬ部屋の中だった。
「…………ここ、どこ」
第一声はそれだった。
当然だ。私の記憶が正しければ、私は森の中で眠ったはずなのに、どうして建物の中に居るんだろう?
『起きたか』
脳裏に直接響くような声。
そうしたら、部屋の入り口っぽい
「あ、狼さん」
それは私が『血の契約』で下僕にした狼さんだった。種族名は『ブラッドフェンリル』だっけ?
ここに狼さんも居るってことは、狼さんが連れて来たのかな?
それを聞くと、狼さんは首を前に倒した。
『ああ、いつまでもあそこで眠っているのは危ないからな。安全なところに運ばせてもらった』
「…………そう」
屋敷に戻されたのかと思ったけど、やっぱりそんなことはないらしい。
──私はやっぱり、追放されたままだった。
「………………」
『主? どうした?』
「狼さん。声、どうしたの?」
前は「ぐるる」からの思念伝達という曖昧な感じだったけど、今は狼さんの言葉が直接わかるようになっている。それに、この脳に響く感じ、不思議な感覚だ。
『主との契約が安定したのだろう。声を直接届けられるようになった』
「…………そう、なんだ」
まだ契約したばかりだったから、完全な言葉を理解できなかったけど、契約が安定すると狼さんみたいにどんな言葉もわかるようになるのかな。
それがわかったのは、ちょっとした収穫かもしれない。
私は昔から動物と仲良くなりたいと思っていた。だって、動物のお腹で寝たらもふもふで気持ち良さそうだから。
「ねぇ、狼さん」
『その狼さんというのは、やめてもらえないか?』
「え、だって……名前、無いでしょう?」
『主が決めてくれ』
「…………いいの?」
『ああ、我は主の下僕だ。拒絶するわけがない』
考える。どうせなら言いやすくて分かりやすい名前がいいよね。
「じゃあ、クロ」
『……………………』
あれ? 不満そう。
「ダメ?」
『だめではない。主がそれで良いのなら、我は従おう』
「……そう。それじゃあ、狼さんの名前は──クロ」
黒いから、クロ。
呼びやすいし、覚えやすい。楽だからいい。
うん、気に入った。
「ねぇ、クロ。ここはどこ?」
クロの名付けのことで忘れていたけど、ここがどこだかまだ知らないや。クロが運んできたって言っていたから、安全な場所なんだと思う。でも、森の中から建物の中に移動していたのは、少し驚いた。
『ここは我らの里だ』
「…………さと?」
さと。里。…………里?
「里って、フェンリル……の?」
『ああ、そうだ』
「魔物、里作るの?」
『住む場所が無いと不便だろう?』
「ぐぅ、正論」
『里』とは言っても、フェンリルの縄張りみたいなものらしい。
適当に住みやすい場所を探して、そこで暮らしているとか。……でも、フェンリルに建物は必要ない。なのに私が寝やすいようにって、クロとその仲間が協力して作ってくれたみたい。
「ありがとう。クロは凄いんだね」
私はお礼を言った。
本当はふかふかの寝床さえあれば十分だけど、それでもクロ達は私のために頑張ってくれた。だからお礼を言うのは当然だ。
『我が主のためにしたかったのだ。お礼はいらない』
「…………うん」
クロはそう言っているけど、その尻尾はぶんぶんと左右に揺れていた。褒められて嬉しかったのかな?
「クロにも仲間、いるの?」
『ああ。……と言っても、我を含めて四体だけだ。フェンリルは珍しく、個体数が少ないのだ』
「会ってみたい。……いい?」
『もちろんだ。皆も主に会いたがっていた』
私の居る建物は狭いということで、順位の高い順番から一匹づつ挨拶に来てもらった。
その際、自分達とも契約してほしいとお願いされたので、私はクロの仲間全員と二つの契約をした。わかっていたことだけど、みんな『ブラッドフェンリル』になって、黒紫の毛並みに変化した。
白い毛も好きだったから、少し残念……。
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