第9話
「メイジーの詩、『穀物新聞』の今月の詩コーナーに選ばれてたわね」
「ああ、私も参考作品に名前があるのを見たわ」
月曜日に教室に入ると、詩作に興味のある令嬢たちが集まって話していた。
オルコット子爵家のキャシー、マクレイ男爵家のブリトニー、ウィンター伯爵家のレイチェルなどだ。
「あの新聞の詩のコーナー、ちょっとレベルが低いけどね」
ブリトニーが言うと、「それでも、誰でも選ばれるわけじゃないわよ」とレイチェルが諫めた。
前の月の優秀賞にレイチェルが選ばれていたのを思い出したらしく、ブリトニーは「優秀賞は別よ」とフォローしていた。
フェリシアの顔を見るとみんな口を揃えて「血は争えないわね」と言った。
何度も言われているけれど、なかなか否定する機会がない。わざわざ言うことでもない気がするからだ。
だが、実のところ、フェリシアとメイジーに血のつながりはない。
いわゆる義理の従姉妹なのだ。
メイジーがフェリシアの従姉妹になったのは四年前で、ちょうど上級学年に上がる年だった。
地方から新しく学園に入る子女も多かったから、あまり目立たなかったし、わざわざ言わなかったので詳しいことはみんな知らない。
しかし、メイジーは下級クラスの時には学園にさえ通っていなかったので、フェリシアがメイジーに会ったのも、その頃が初めてなのだ。
フェリシアの母のすぐ下の弟がゴダード家の婿養子で、現在のゴダード男爵である。
ゴダート家の令嬢だったその妻は、娘を一人産んですぐに他界した。
数年後ゴダート男爵が再婚した相手がメイジーの母親だ。メイジーはその人の連れ子で、当時十四歳だった。
母の弟とゴダート家の令嬢との間に生まれたアグネスは八歳年下で、当時は六歳。四年経った今は十歳になっている。
妹のローズマリーと同じ年だ。
年長のメイジーはゴダード家の第一令嬢だが、血筋の関係で相続権はアグネスにある。
血のつながりはなくても、母から「従姉妹になったのだから仲よくしなさい」と言われて、上級学年用の新しい学舎に一緒に通い始めた。
メイジーは最初から「フェリシアの従姉妹」だとまわりに自己紹介したので、みんなそのつもりでメイジーに接している。
フェリシアには、メイジーの言葉を否定する理由がなかった。
その頃からフェリシアの近くにはいつもメイジーがいる。
「メイジーは王室専属の宮廷詩人を目指してるらしいわね」
レイチェルが言った。
「えー、無理じゃない?」
「フェリシアならともかく、さすがにメイジーには、そこまでの力はないわよね」
ブリトニーとキャシーが笑った時、メイジーが教室に入ってきた。
固い表情で自分の席に向かいかけたが、レイチェルに「おめでとう」と言われると、きらりと目を光らせて、みんなのところにやってきた。
「すごいじゃないメイジー」
「最近、頑張ってるわね」
みんなに言われて、メイジーは鼻をひくひくさせながら誇らしげに胸を張った。
「新聞には名前しか載ってなかったから、どんな詩だったのか、今度見せてね」
「え……」
「私も見たいわ」
「是非、見せて」
メイジーはなぜか気まずそうに「どの詩を出したのか忘れた」などと言って、顔を背けた。
なんだかヘンな反応だった。
キャシーが話題を変えて、貴族街の外れにできた小物の店の話を始める。
「この前、メイジーに教えてもらった『リトル・アビー』、すごく気に入ったわ」
「私も行ってみた。可愛いお店ね」
「メイジーはセンスがいいわね」
三人は口々にメイジーを褒めた。
「あんなお店、どうやって見つけたの?」
メイジーはまた鼻をひくひくさせて「ふつうに、歩いていたら目に入ったの」と言った。
フェリシアは驚いてメイジーの顔を見た。
メイジーは素知らぬ顔でにこにこ笑っている。
「店先の雰囲気だけで、いいお店を見つけるのが上手なのね」
「メイジーは見る目があるんだわ」
そんなことないわよ、と笑う横顔を見て、なんだかなぁと思う。
これで何度目だろうと思う。
メイジーがみんなに教えている店は、どれもフェリシアが見つけた店だ。
店に限らず、演劇の舞台やワクワクする本、さまざまな情報のどれもが、全てフェリシアの受け売りなのだ。
フェリシアから聞いたことだとは、メイジーは一言も言わないけれど。
別にそんなことでいちいち目くじらは立てないし、本当にどうでもいいことだ。
けれど、例えば、もしも立場が逆なら「ここは、メイジーに教えてもらったんだけど」と、フェリシアは一言添える。
手柄が欲しいとか、そういうことではなく、きっとなんとなくそうする。
本当にささいな、くだらないことだけれど。
フェリシアの心が狭いのかもしれないけれど、メイジーのそんなところにも、時々モヤッとするのだった。
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