第10話

「頼れる人には頼らなくちゃ」


 メイジーの母はいつもそう言っていた。


 自分たちは弱いのだから、人に寄りかかるのは当たり前。

 寄りかかられる側も頼られれば悪い気はしない。

 お互いに満足。ウィンウィンの関係であると。


 もともと人に後れを取ることの多かったメイジーは、しょっちゅう誰かの手を借りたり、まわりに頼ったりしていた。

 人の手を借りたほうが楽だし、人に頼るのは当たり前だとも思っていた。

 舌打ちされたり、どんくさいと罵られたりすることも多かったが、なぜ彼らがメイジーを責めるのかわからなかった。


 ある時、母が言った。


「私たち、ゴダード男爵家の人間になれるかもしれないわよ」


 人のいい男爵に、母は自分の窮状を切々と訴えて同情を買い、なし崩し的に夫人の座を手に入れてしまったらしかった。

 地味でたいした魅力もない母を、なぜ後妻に迎えてくれたのか不思議だった。

 けれど、思った以上に、男爵は親切だった。

 身寄りがない(ことになっている)母とメイジーを家族に迎えることで、何かいいことをしたような気分になっているらしかった。


 やはり寄りかかれる相手には寄りかかったほうがいいらしい。

 相手も喜ぶし、何より自分が楽だし、得をする。

 

 下級貴族と平民が通う教会の学校では、時々、人に見下されてたり舌打ちや罵りを受けたりした。

 けれど、ゴダード男爵家の令嬢になり、上級貴族の子女が通う学園に通うようになると、そういうこともなくなった。


 従姉妹になったフェリシアの友だちは、みんな気立てのいい令嬢ばかりで、多少メイジーが迷惑をかけても、誰も責めたりしなかった。


「私……、小さい頃は、ずっといじめられてて……、友だちもいなかったから、今がすごく嬉しいの……」


 メイジーがそう言うと、みんなは本気で同情してくれた。


 言ったことは嘘ではなかった。

 舌打ちされたり罵られたり仲間外れにされたりしていたのは本当だし、学園でみんなと仲よくなれて、毎日がとても充実しているのも事実だった。


「これからも仲よくしてね……」


 メイジーが言うと「もちろんよ」、「当たり前じゃない」と、必ず優しい言葉が返ってきた。


 そんな仲間に満足していた。

 遊びの相談をしているのがわかると「私も行っていい?」と聞いた。

 みんないい人たちばかりだから、決して断られることはなかった。


 たまに知っているお店や面白い本のことを教えてあげると、「メイジーはセンスがいい」と褒められた。


「どうやって、見つけるの?」


 聞かれても、答えようがなかった。

 たいていフェリシアが見つけたもので、しょっちゅうフェリシアにくっついているうちに知ったものばかりだった。


 詩が授業で選ばれた時は、特に褒められた。


「どうやって思いついたの?」


 そう聞かれても、やはり答えようがなかった。

 自分が読んだもののうち、特に気に入ったものをよく見て書いた。

 いろいろなところで出している選詩集から、こういうのを書きたいと思う作品を参考にした。

 特に好きな部分はほとんど抜き出して書いたようになってしまったが、別に真似したとか盗んだというわけではない。

 ほかの部分は自分で考えて書いたのだし……。


 たまたま少し似てしまうことは、いくらでもある。

 何かを参考にして書くことも多いはずだ。

 誰でも、何かから多少の影響は受けている。


 メイジーだけがやっていることではないはずだ。


 この前の『穀物新聞』に出した作品は、少し人のものに似すぎていたかもしれないけれど……。


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