第4話

 ある日、メイジーの詩が授業の中で優秀作として取り上げられた。


「おめでとう、メイジー」

「フェリシアの詩も相変わらず素敵だったけど、今回のメイジーの詩、とてもよかったわ」

「特に、冒頭の物悲しい場面が引き込まれたわね」


 後半は……、と言いかけて曖昧に言葉を濁す。

 正直なところ、後半というか、冒頭以外は、とても読めたものではなかった。

 まるで別人が書いたのかと思うほどだ。


 みんなに注目されたメイジーは、ふだんのおどおどした大人しさを捨て去って、嘘のように堂々と微笑んでいた。

 まるで選ばれるのはいつものこと、当然だとでも言いたげに、ツンと顎を上げて「ありがとう」と礼を言う。


「どうやって、あんな素敵な場面を書いたの?」


 熱っぽく讃えられて、小首を傾げる。


「さあ。自分でも、よくわからないの」


 みんなは感心したように頷いた。


「やっぱり従姉妹ね」

「フェリシアも、いつも好成績を残してすごいけど」

「血は争えないって、こういうことかしら」


 実は、メイジーとフェリシアに血のつながりはないのだけれど、まわりは知らないのでそんなふうにも言われた。


 メイジーはいつの間にかフェリシアの隣に並んでいた。

 たまたまだが、そこは教室内の輪の中心に位置していた。


 みんなの視線が自然と集まる立ち位置で、フェリシアにそんな意図はなかったが、どこか一段高い場所にでも立っているような錯覚を覚える。

 みんなを見回し胸を張るメイジーは、ビックリするほど得意げだった。


 フェリシアは学園内で人望があるというか、誰とでも仲よくなれて友だちも多かったので、同じ括りで認められたことが嬉しかったのだろうか。

 でも……。

 それにしたって、なんでそんな得意そうに? 


 フェリシアは胡乱な気持ちで隣のメイジーに視線を向けた。


 メイジーはよくわからない子だ。


 いつもフェリシアにくっついて回り、フェリシアの友だちを自分の友だちのように扱う。

 仲のいい友だちと別の友だちが仲よくなることは、ふつうならとても嬉しいことだ。

 けれど、メイジーの場合は、何がどうして、とうまく言えないのだが、なんとなく居心地が悪くなった。


 たぶん、みんなに迷惑がかかるかもしれないと思うからだ。


 メイジーは、最初から相談して何人で行くと決めてあった友人宅でのお茶会に「私も行っていい?」と、おずおず聞いてくる。

 それぞれ他の予定がある時に「今週末、海辺にピクニックに行かない?」と誘ってきて、何人かが「行けない」と断ると、ひどく傷ついた顔で、それでいてものすごく必死になって「じゃあ、来週は?」と聞いてくる。


 結局、執拗な誘いにみんなが折れる形で、行く予定のなかった海辺のピクニックに出かける。

 行けばそれなりに楽しいので、大きな問題にはならないけれど、なんとなくペースが乱れて、次の約束が間遠になったりするのだった。


 迷惑だとはっきり言うほどではないけれど、ビミョーに図々しい。

 フェリシアに遠慮しつつもメイジーを疎ましく思う気配を、チラリと匂わされることも少なくなかった。


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