第3話
王室騎士団に所属し、その中でも一目置かれているサイラスは並々ならぬプライドを持っていた。
サイラスと婚約したフェリシアでさえ、サイラスの剣のことでは羨ましがられるのだから、そこを自慢したい気持ちは十分に理解できる。
「サイラスの剣に、フェリシアの詩。二人は本当にお似合いね」
「素敵な婚約者で羨ましいわ」
学園や社交の場でも、よくそんなふうに褒められた。
詩というのは、学園で習う詩作、あるいは詩物語とも呼ばれる創作物のことだ。
短い物語を含んだ散文に近いもので、歌とともに女子の教養の評価ポイントになっている。
上級学年、つまり十四歳になると、学園での教育は男女別々で行われるようになる。
学舎も別になり、まったく違う内容の授業を受けることになるのだ。
男子は主に剣や馬術、馬上槍試合などの武術系、政治や戦略を含むゲームなどが中心になり、女子の教育では針仕事や機織り機の使い方、刺繍、ラテン語の読み書き、歌を歌うこと、物語や詩を書くことなどが中心になった。
歌や詩作は卒業後も貴婦人の嗜みとして重視される。
中でも詩作は授業の中で表彰されたり、年に二回発行される「王室選詩集」に選ばれたりする機会があり、評価の基準がはっきりしていた。
王室専属の詩人になるという道もあり、よい成績を収めると、まわりから尊敬を集めるような風潮があった。
フェリシアはよく授業内で表彰されたし、民間の選詩集に掲載される詩物語が好評だった。
去年は「王室選詩集」の佳作にも選ばれた。
それらのことをフェリシアが鼻にかけることはなかったが、学園の友人たちはフェリシアを応援していた。
いつかは「王室選詩集」の最高賞を取ってほしいなどと言って。
応援されれば、目標にしてみようと思う。
ただ、フェリシアにとって詩を書くことは生活の一部でしかなかった。
書くこと自体は楽しいし、詩作そのものが好きだったし、努力をすることも苦にならなかったけれど、それで評価を得ようとか、何者かになりたいとかは、あまり考えていなかった。
メイジーはよくフェリシアの詩を「大好きだ」と言っていた。
騎士が素敵だった、主人公が騎士と心を通じさせる場面がよかった、などと具体的な内容をあげて褒めた。
その中で時々「でも、あそこはこうしたほうがよかったかも……」と、アドヴァイスをしてくることがあった。
アドヴァイスをもらうことは、よりよい創作のために役に立つ。
人の意見にはなるべく耳を傾けるようにしていたフェリシアだが、メイジーの指摘は単なる自分の好みの押し売りめいたところがあり、あまり参考にならなかった。
メイジーも同じ授業を受けて詩を書いている。
自分の創作物の中で好きなように書けばいいのにと、フェリシアはよく思った。
ふだんは意味や意図がよくわからない詩物語を書くメイジーだったが、たまに授業で表彰されることがあった。
部分的にとてもよくできている詩が選ばれていた。
褒められるのはその一部分なのだが、ぼんやりと「どこかで見たことがある」という印象を受けるものばかりだった。
いつどこで見たものかまでは、はっきりとはわからない。
けれど、なんとなく「どこかで見た」と感じるのだ。
そう感じた理由は後で嫌というほど知ることになるのだが、その理由がわかるまでの間は、ただ「どこかで」と感じただけだった。
まわりのみんなも、メイジーが選ばれたことを、ただ「すごいわね」と褒めていた。
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