第2話
王室騎士団に所属するサイラスには、トビーとニールという仲間がいた。
どちらも子爵家の次男で、サイラスと同程度の剣の腕を持っていた。
つまり、比較的優秀なグループに所属しているものの、御前試合などで優勝できるほどの実力はないというビミョーな腕である。
週に一度の礼拝の帰り道、公園通りを馬車溜まりまで歩く
サイラスと婚約してからは、フェリシアも一緒に歩くことが増え、その話を耳にするようになった。
当然のようにメイジーも一緒に聞いている。
「バーニー・アシュフィールドのやつ、たいした腕でもないくせに、いい気になりやがって」
トビーが吐き捨てると、ニールもそれに同調した。
「サイラスにアドバイスするなんて、何様のつもりだ?」
「ケヴィン様と仲がいいことを鼻にかけてるんだろう」
ケヴィン様とは、我がアクランド王国の第二王子ケヴィン殿下のことだろう。
今年二十歳で王室騎士団に所属している。エイドリアン・ワイスと並ぶ剣の強豪だ。
噂話はたいてい誰かの悪口で、最近は特にアシュフィールド伯爵家のバーニーがやり玉にあがっていた。
剣の腕が同等か彼ら以下で、二つ年下であるにもかかわらず、サイラスに意見したのが面白くないらしかった。
フェリシアやメイジーにまで「人間性に問題があるやつだから、付き合わないほうがいい」と言ってくる。
バーニーを直接知っているフェリシアは、彼らの言うことを無言で聞き流した。
反論するほどではないが、従うつもりもなかった。
メイジーは違った。
「そんなことを言うのはひどい」「私もバーニーとは、今後一切仲よくしない」などと口にして、自分はサイラスの味方であるとアピールした。
「バーニーが参加する集まりにも行かないわ。今週末のパーティーにも、もちろん行かない」
誘われてもいないパーティーの話題まで持ち出して、わざわざ言う。
フェリシアは、そのパーティーに行く予定だった。
アシュフィールド伯爵家とエアハート侯爵家は事業上の長い付き合いがあり、来週末にアシュフィールド邸で開かれるパーティーには、フェリシアも呼ばれているからだ。
敢えて言うつもりはなかったが、サイラスが来週末のデートの約束をしたいと言ってきたため「週末はパーティーがある」と伝えた。
メイジーが「それって……、アシュフィールド邸の……?」と、いかにも怯えた様子で聞いてくる。
フェリシアが短く「ええ」と答えると、サイラスは眉を顰めた。
「フェリシア……。今、僕たちが言ってたことを聞いてただろう? なのに、バーニーの家のパーティーに行くのかい?」
それとこれとは別だという気持ちがフェリシアにはあった。
それで、つい自分の意見を言っていた。
「バーニーのことは昔から知っているけれど、特に人間性に問題があるとは思わないわ」
本当のことだ。
父親同士の付き合いが十年以上に及ぶため、二つ年上のバーニーのことは子どもの時からよく知っている。
明るくて元気で、たまに調子に乗りすぎてしまうこともあるけれど、気のいい兄貴分として好ましく思ってきた。
「バーニーは、そんなに悪い人ではないわよ?」
「フェリシア……、サイラスの婚約者なのに、バーニーの味方をするの……?」
悲しそうな顔でメイジーが聞いてくる。
胸の前で祈るように手を組んで。
「どっちの味方をするとか、そういうことじゃないんだけど」
「でも、サイラスは、バーニーにひどいことをされたのよ……?」
ひどいこと?
剣の練習をする中でちょっと意見を言うのはひどいことなのか?
フェリシアは困惑したが、メイジーはさも理解できないというようにフェリシアを見つめている。
「フェリシアは、サイラスのことが大事じゃないのね……」
だから、なんでそうなる。
かすかな苛立ちを覚えるが、メイジーはそれきりフェリシアに背中を向けてしまった。
わざわざこちらを向かせて、細かいことを説明する気にはなれなかった。
たとえ説明したとしても、メイジーが少しも理解しないことを、これまでの経験からフェリシアはうすうす感じ取っていた。
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