第七章~クダラナイ電話
「鳴ってるよ?」
「めんどくせぇ」
うつ伏せたまま、
「緊急なんじゃないの?」
「金曜の夜中に、それはない」
それでも気になったあたしは身体を起こして手を伸ばしそれを取ると、彼の顔に近付けた。
「何なんだよ~ったく・・・誰だよ~」
彼は首をもたげ画面をチラッと見た。あたしもその時初めて画面を覗いた。
「非通知」という文字が黒い背景に白文字でくっきりと見えた。
「
今度は、彼がけたけたと笑い始めた。
「どういう意味?」
あたしはケータイを持っていないので、外にいる時は公衆電話から掛ける。その時にも、この文字が出るのだと彼は説明した。
「あたしからかもよ?」
それを聞いたあたしが冗談半分で言ったら、彼はニヤニヤと笑いながら起き上がり、ケータイを取り上げ電話に出た。
「もしもーし」
言いながら、あたしを横目で見る。顔は笑ったままだった。が、次の瞬間、その表情を曇らせた。
「・・・今頃、何だよ」
不穏な空気が、部屋中に立ち込める。
視線のやり場に困って何気なく窓を見たら、きらきらと光る歪んだ珠を映したガラスにへばり付く物体が目に入った。ソレは、同じ場所に位置したままジッとしていた。
「・・・用ないなら、切るわ」
掛けて欲しくない人からの電話だと、その声のトーンから読み取れた。
・・・誰なんだろう。
程なくして、彼は電話を切った。
「テーブル戻しといて。鳴っても無視でいいから」
「誰なの?」
あたしは、ケータイを受取りながら訊いた。
「ここを嫌がってた元カノ」
「あぁ・・・」
絶妙なタイミングで掛けてきたな、と、不本意ながらも感心してしまった。
「で・・・何て?」
「くだらねぇ話」
「何?くだらない話って」
「縒り、戻したいとか言ってた」
「今更?」
「男と別れたかなんかで、淋しくなったんじゃねぇの?」
「だからって、光流に連絡・・・」
言い終わるか終わらないかのタイミングで、彼の唇があたしの言葉を遮断する。そして、右手をあたしの髪の毛の隙間に滑り込ませた。瞬間、あたしは彼に渡されたケータイをベッドサイドに落としてしまった。
光流の寝息で目が醒めた。
リビングの掛け時計の短針は、1と2の間にある。
雨は、止んでいるようだった。
ガラスの向こうの光の数は、この時間を境に激減する。減ってしまった光の珠は濡れた窓に滲んで、油絵具で描かれたドロップ飴のようだった。
ふと気になって窓を見やると、今までジッとしていたソレが、一瞬微かに動いた気がした。あたしは布団を目元まで引き上げた。
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