第六章~邪魔モノ

「俺、贅沢とか全然興味ねぇんだけど。部屋だけは・・・部屋だけはどうしても、贅沢したかったんだ」

「うん。知ってる」

「この部屋を優女子ゆめこが気に入ってくれて、よかった」

「女なら、みんな気に入るでしょ?」

 微笑むあたしに、光流みつるは続けた。

「大学ん時の彼女は嫌がってた」

「え?何で?」

「高所恐怖症?とかで。このロールカーテン開ける事はなかったなぁ・・・あいつがこの部屋にいる時は」

 確かに、壁のほとんどがガラス張りになっているし最上階なので、恐怖を感じても不思議ではない。

「けど、勿体ない・・・この景色を愉しむ事ができなかったなんて」

「ま、あいつとは合わなかったんだろうな・・・喧嘩もよくしたし」

 あたしは、このタイミングで彼から離れ、身体を横たえた。と同時に、彼もあたしの方に身体の向きを変える。

「優女子ぉ」

「ん?」

 彼の唇が近づいてきた。

 と、その時。

 窓の外に何かがへばり付いているのが、見えた。丁度彼の頭の後ろ辺りだった。

「待って」

「どした?」

「何かいる」

「どこ?」

「窓」

 あたしは、左手でそれを指差した。

 彼は身体をくねらせ、あたしの指差す方を見やった。

「ん?・・・トカゲか?」

「こんな高い場所まで、来る?」

「わかんね」

 その時、ソレが急にくるりと下方向に向きを変えた。驚いた。

 雨粒をその小さな体に受けながら、それはそのまま動かなくなった。

「・・・見られてる」

 あたしは、けらけらと笑った。

「なんだよ~邪魔すんなよなぁ~」

 光流は言いながら、そのままベッドにうつ伏せた。

 その時不意に、彼のケータイから着信音が鳴り響いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る