第五章~23:07の景色

 光流みつるはあたしより二つ年下で、広告制作会社でデザイナーをしている。出逢った当初は新入社員だったから、今年で三年目になる。

 あたしには彼の創るモノの価値がよく判らなかったが、創作活動をする彼の姿はとても美しくて、大好きだった。


「梅雨、マジかったりぃわ・・・」

 寝室に置かれたダブルベッドに転がった彼が、ふと漏らす。ベッドは、左全面をあの映画のスクリーンのような窓にぴったりとくっ付けて置かれてある。

「あたしは好きよ、雨。そのお陰で、光流と知り合えたワケだし」

 ベッドを背もたれにして雑誌をめくっていたあたしはそこから視線を外し、身体を左にひねり彼を見てからそう答えた。

「六月、祝日もねぇじゃん」

「休みが欲しいなら、有休取ればいいじゃない?」

「まぁね・・・てか、こっち来いよ」

 あたしと視線を合わせた彼は窓側に寄って、あたしの為のスペースを作った。あたしは軽く微笑んで、雑誌をテーブルの上に無造作に置くと、彼に促されるままそこに横たわった。彼は、枕元のリモコンを取り上げ、部屋の照明を落とす。

 瞬間。

 テーブルに置かれた彼のケータイ画面の「23:07」が、鮮明に浮かび上がった。

 下ろしてあるロールカーテンを、彼は寝転んだまま器用に上げる。

 大きな長方形のガラスの向こうには、赤や青や黄色の滲んだ光の珠が美しく重なり合って見える。

「雨の日の夜景も、すっごく綺麗」

 あたしは、上向きで横たわる彼の胸に上半身を預け、ぼんやりとそれを眺めた。彼は上向きのまま、視線を外に置いていた。

 

 どれくらいの時間が流れただろうか。気が付くと、光流はあたしを見ていた。

「なぁに?」

 くすぐったくなって、あたしは照れ笑いをしながら彼をみつめ返した。

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