第84話 ゴーレムと極上のスープ
「皆様、お夕食が出来上がりましたよ」
メルフィさんが裏庭に現れて、そして「わっ!?」と驚いた。
「あ、あれ……? 裏庭ってこんなに緑にあふれてましだったけ!?」
ナイスリアクションのメルフィさんに、俺は
「なるほど、魔宝石の波長の違いから起こる
「ええ、まったくもってそう思います」
説明が終わったところで、話題は夕食の話に戻る。
「今日は以前ガンジョー様が倒したトロールの骨とジャングルの野菜をふんだんに使った野菜ポタージュを作りました」
「おおっ、あのトロールの! 確か細かく砕いた後、干して保存してあった奴ですよね?」
「はい。トロールの骨を煮ることで得られるエキスは栄養満点で濃厚なのです。今の私が客人にお出し出来る料理としては最上の物を選びました。お口に合えばよろしいのですが……」
「わ、私は案外好き嫌いがないので、問題なく口に合うと思う! 半分エルフだからといって、食べてはいけない物があるわけでもないのでな!」
シルフィアは食い気味に言った。
エルフといえば森の民、菜食主義者のイメージが……いや、最近はないよな。
むしろ何でも美味しそうにばくばく食ってるイメージの方が強いか。
「では、教会の中に入りましょう!」
マホロを先頭にみんなで教会の中の炊事場に向かう。
ゴーレムの俺は野菜ポタージュを飲めないが、トロールの骨をベースに作られたスープがどんな見た目で、どんな匂いをしているのか気になった。
「おお……教会の中はスープの匂いでいっぱいだ」
独特の香ばしさとよく煮込まれた野菜の甘さを感じる。
もう匂いだけでもわかる。これ絶対美味い奴だ!
みんなもその匂いを感じ取ったのか、無言でいそいそとテーブルに着席する。
早く飲みたくて仕方ない様子だ。
「こちらが濃厚野菜ポタージュスープになります」
器に入れられたスープをメルフィさんがテーブルに並べる。
色は……鮮やかな緑一色!
具材は見当たらず、少しとろみのある緑の液体のみが器を満たしている……!
「ここまで緑一色だと結構インパクトありますね……!」
マホロがみんなの気持ちを
でも、食欲をそそる匂いは間違いなく目の前の緑のスープから発せられている。
「どうぞ冷めないうちにお召し上がりください。他の料理もすぐに運んで来ますので」
メルフィさんに促され、マホロとシルフィアは手を合わせる。
「「いただきます!」」
スプーンを使い、緑色の液体を口へと運ぶ。
そして、それを一飲みした瞬間……マホロとシルフィアはカッと目を見開いた。
その反応はネコが
目を見開き、口をあんぐりと開け、何かに驚いているような表情。
その表情のまま、二人は数秒間固まっていた。
「だ、大丈夫かい……?」
俺は不安になって声をかける。
メルフィさんが害のあるような料理を作るとは思えないが……。
「うまうま……美味い……! うめぇですよ、ガンジョーさん!」
「マ、マホロ……?」
マホロは目をギラつかせ、器を持ち上げてゴクゴクと直接スープを飲み始めた!
こんなマホロは見たことがない……!
「シ、シルフィアは大丈夫か……!?」
シルフィアの方を見ると、彼女も同じようにしてスープを飲み干していた。
マホロと違うところといえば、彼女は笑顔のまま涙を流しているということ……!
「人が作ってくれた料理というのは……どうしてこうも身に染みるのか……!」
飲んだスープの水分以上の涙を流しているように見えるシルフィア。
そ、そんなに感激するほどこのスープは美味いのか……!?
俺は今この世界にゴーレムとして生まれて初めて何かを食べたいと思っているかもしれない!
「ニャ~!!」
「ノルンには少し冷ましたスープを用意していますよ」
メルフィさんはそう言ってスープを床に置く。
ノルンは喜んでスープに舌をつけ……マホロたちと同じように驚愕の表情で固まる。
その後、舌でペロペロするネコの飲み方ではなく、顔をスープにつけてゴクゴク飲み始めた。
ネコすらも夢中にさせるスープ――どんな味がするんだろう!?
そのことで頭がいっぱいになった時、ゴーレムの肉体に変化が現れた。
〈魂の強い反応によって、より高度な肉体と魂の適応に成功〉
ガイアさんの声が聞こえ、ゴーレムの顔が変形する。
今まで存在しなかった口が作られていく……!
〈味覚を再現することに成功しました〉
最初から存在した視覚、聴覚、触覚。
トロールの肉のステーキを作った時に獲得した嗅覚。
そして今……トロールの骨を使ったスープで味覚を獲得することに成功した!
俺は味覚を手に入れた感動より、とあることが気になっていた。
『この世界のトロールって、俺が思ってるよりすごい存在だったんだなぁ!』と。
頭が悪くて体だけデカい愚鈍な怪物という認識を改めなくてはならない。
トロールは最高の食材だ……!
「メルフィさん、俺にもスープください!」
出来たばかりの口でしゃべりかける。
しかし、メルフィさんは今おかわり欲しさに鍋ごと持っていこうとしているマホロとシルフィアを取り押さえている最中だった!
「お、俺も手伝います!」
両腕で暴れるマホロとシルフィアを抱え込む。
「おかわり……おかわり……!」
「おかわりよこせ……!!」
うわ言をブツブツと言い続ける二人を見て思った。
「メルフィさん、これスープにヤバいモン入ってませんか……?」
「いえ、ただただ私の作ったスープが美味し過ぎるだけです。食材と設備が充実して、やっと私本来の料理の腕を披露出来るようになりましたので」
「そ、そうですか……」
自信満々にキッパリと言い切るメルフィさんに、俺は何も言い返せなかった。
そして、俺の顔の形が変わったことにまだ誰も気づいていない……。
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