第38話 ゴーレムと灯籠

 3Dマップを頼りに灯籠を各所に設置していく。

 さっきはデザインを決めるまでに時間がかかったけど、決めた後はまったく同じデザインの灯籠を何個も作っていくだけだ。


 サクサクと作り、光魔鉱石と地の魔宝石を接続する。

 でも、まだ光は灯さない。すべて設置し終えた後に一斉に起動するんだ。


 住人を驚かせないため、移動中にすれ違った人には「これから街に光が灯る」と伝えておく。

 とにかく伝えたい気持ちが先行して、何だか詩的な言い回しになったことはいなめない。


「……うん! これでマップに置かれたピンの場所に灯籠を設置出来たはずだ」


 あたりはすっかり暗くなって、灯籠が活躍する時間帯になっていた。

 俺とマホロは街の中心である噴水前で光魔鉱石の起動を見守ることにした。


「いよいよですね、ガンジョーさん!」


「ああ、魔力回路にも問題はない。せーのっで起動しよう!」


「はい!」


 俺とマホロは「せーのっ」と言って、街全体の灯籠に光を灯した。

 瞬間、淡く温かな光に包まれる瓦礫の街。


 月明りと星明りだけだったさっきまでとは、雰囲気がまるで違う。

 いや、雰囲気どころが世界までが変わってしまったような感動があった。


 瓦礫の街の建築は洋風だから、そこに入り込んだ和風の灯籠には強い存在感がある。

 でも、まったく噛み合っていないわけではない。

 その異質感には何だか心地良さを覚えるんだ。


 光量も問題はない。まぶしくないけど、足元をしっかり照らせる明るさはある。

 廃鉱山から持って来た光魔鉱石はまだ残っているから、建物内の光源として利用してもらうのもアリかもしれないな。


「配置する場所や灯籠同士の間隔も完璧だ。これは大成功と言っていい! マホロも……」


 マホロに同意を求めようと視線を向けると、マホロは目を見開いて涙を流していた!


「ど、どうしたんだいマホロ!? まぶしかったかい? それとも思ってたのと違ったかい?」


「え……あっ、私泣いてる……!」


 彼女自身、泣いていることに気づいていなかったようで、涙を手でぬぐって驚く。


「ただただ、すごく感動したんです……。防壁の時も、裏庭の時も、水路の時も、いつも感動してたんですけど、何というか心からこの街を美しいと思えて、知らない間に涙が出てました……」


 確かにこの光景は、この街でしか見れない美しさだ。

 和洋折衷、綺麗な建造物と瓦礫が同居し、それを淡い光が照らし出す。

 人が少なく静かで、夜の乾いた冷たい風も独特の雰囲気を作っている。


「これもガンジョーさんとガイアさんのおかげです……! 毎日感謝してもし足りないです……!」


「マホロがそばにいてくれなかったら、ここまで街のために頑張ろうと思ってなかったかもしれない。元の世界で自分が死んだ自覚があったからといって、ゴーレムに転生するなんて普通は受け入れられない話さ。でも、マホロの存在が俺を本物の守護神にしたんだ」


「私……何かしましたか……? そもそもゴーレムを召喚した以外で……」


「俺が何かしたら、すぐに褒めて喜んでくれる! 誰かの前向きな言葉っていうのは、行動を起こす時に一番必要なものなんだ。あ、別に何でも褒めろと言ってるわけじゃないよ。今のままでマホロは俺にとっても、この街にとっても、必要不可欠な存在だってことさ」


「むむむ……! ちょっと難しいですけど……わかりました! 私は今まで通りの私で頑張ります!」


「ああ! マホロが笑顔でいてくれたら、この街はもっと良くなる!」


 涙が止まったマホロが「おーっ!」と拳を突き上げる。

 さっきの俺の言葉はすべてが本心だ。


 まったく別の世界にやって来て、正気を失わずにいられたのはマホロのおかげだ。

 もちろん、それ以降の行いに関しては大体がガイアさんのおかげだ。

 それこそ、毎日感謝してもし足りない!


「あっ、ガンジョーさん! 噴水から水が出ましたよ!」


 マホロがビシッと噴水を指さす。

 三時間ごとに水が出るように設定した噴水から水が噴き出している……。


「ということは……もう九時ってことか?」


「うわっ……! メルフィのご飯が冷めてしまいます……!」


「す、すぐに帰ろう!」


 いい雰囲気そっちのけで、俺たちは慌てて教会に帰った。

 急いで帰る時も足元が見やすい灯籠は、やっぱり設置して良かったな。


「メ、メルフィ……ただいまです……」


「その……マホロを帰すのが遅くなってすいません……」


 俺とマホロは腰を低くして教会に入り、メルフィさんのいる炊事場に来た。

 すると、メルフィさんはちょうど晩御飯を完成させたところだった。


「お疲れ様です、マホロ様、ガンジョー様。そろそろ帰ってくる頃だと思い、晩御飯の準備をしておきました」


 俺とマホロは驚いて顔を見合わせる。

 いやぁ……メルフィさんの方が数枚どころか数十枚上手うわてだったな。

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