第37話 ゴーレムと街の光

 時は夕暮れ――もうじき瓦礫の街も暗くなる。

 普通の作業なら明日の朝から始めようと思うところだが、これに関しては暗くなる今から始めるのがベストだ。


「マホロ、トロッコに乗せたままの光魔鉱石を取りに行くよ」


「はい! また何か作るんですね?」


「ああ、この街を明るくしてくれるものさ」


 光魔鉱石はたくさんあるので、トロッコごと街の中に運び込んだ。

 これを使って作る物は……夜の街を照らす街灯がいとうだ。


 今の瓦礫の街の夜を照らすのは月明りと星明り、そして個人が持つ火魔鉱石か光魔鉱石だ。

 それだと照らせる範囲が狭くて、足元に障害物が多いこの街では危険極まりなかった。


 さらに夜間、予想外の手段で魔獣が侵入して来たとか、何かしらの緊急時にも暗いままでは対応しにくい。

 だからこそ、夜でも街を照らしてくれる街灯が必要だと思ったんだ。


 これだけの光魔鉱石があれば、街中を照らすことが出来る。

 まずは設置する位置を考えていこう。


「ガイアさん、精査スキャン仮想造形モデリングを組み合わせて、この街の3Dマップを表示出来ませんか?」


 周囲の地形情報を調べ、得た情報を3Dモデルとして出力する。

 この街の構造はとってもシンプルで建物もまだ少ないから、何だかいけそうな気がしたんだ。


精査スキャン仮想造形モデリング――三次元マップを表示します〉


 ガイアさんのレスポンスも、以前の格式ばった話し方に比べると柔らかくなった気がする。

 おかげで言葉の意味も直感的に伝わって来る。


「これは……瓦礫の街を小っちゃくしたものですか?」


「ああ、こんな感じで建物があって防壁があるわけだ」


「ほほう……!」


 マホロが表示された街の3Dマップを見て目を丸くする。

 実際に上空から街を見渡したことはないので、小さいながら手軽に街を俯瞰ふかんすることが出来るこのマップは新鮮そのものだ。


 俺自身も思ったより街に建物があることに驚く。

 この数の建物を1つ1つ俺が立て直して来たわけか……。

 自惚うぬれるわけじゃないが、何だか感慨深いものはあるな。


「他の建物と比べると……教会って結構大きかったんですね!」


「そうだね。立派な建物だとは思ってたけど、裏庭まで含めると想像以上だ」


 あまり細かい物までは造形されていないので、裏庭は平らでのっぺりしている。

 それでも、どこに街灯を設置していくのか考えるには十分なマップだ。


「あんまり一つ一つの街灯の光を強くしたくないな。明るくはしたいけど、まぶしくはしたくないんだ」


「それだと街灯の光量を絞って、数を多めに設置した方がいいですね」


 3Dマップとにらめっこしながら、マホロと一緒に設置場所を考えていく。

 マホロはガイアさんと会話が出来るようになったからか、仮想造形モデリングで作った3Dマップに直接触れて、目印となるピンが置けるようになっている。


「よし、こんなもんかな」


「なるべくどこも均一に、それでいて生活の邪魔にならない場所に置けたと思います」


 3Dマップ上には赤い光のピンが複数置かれている。

 後は現実の瓦礫の街の同じ場所に街灯を設置していくだけだ。


「さて、街灯の材料は……あっ」


 俺が思い浮かべていた街灯のデザインは、いわゆる『ガス灯』だ。

 あの洋風でちょっとシャレたものを作ろうと考えていた。


 しかし、これだけ出来ることが増えた今でも、金属製の物を一から作り上げることは難しい。

 ならば、瓦礫の中から街灯の残骸を探して修理すれば……と思ったが、この街には街灯の残骸が全然残っていないんだ。


 これだけ規模が大きかった街に明かりがないなんてことはあり得ないし、街灯に使われていた素材が貴重で、街が廃れると同時に何者かによって持ち出されたと考えるのが自然か。


 うーん、困ったなぁ……。

 せっかくマホロと一緒に位置を決めたのに、設置する物を作れないのでは……。


 ……いや、別に街灯は金属製である必要はないんだ。

 街に設置されたあかりなら、それは立派な街灯になる。


「ガンジョーさん、どうしました?」


「いや、ちょっといいアイデアが思いついて、思わず声を出しちゃったんだ」


「おお……! 流石はガンジョーさんです!」


 頭の中に浮かぶのは、作りやすさとオシャレさを両立した完璧な街灯のアイデア――


「最初の一つを教会近くのポイントに設置してみよう」


 材料となるのは石だ。

 石造りの建物の残骸が多い瓦礫の街で、一番手に入りやすい素材だ。


 それを組み合わせて作り上げるのは『灯籠とうろう』。

 お寺や神社、荘厳そうごんな庭園などに欠かせない置物みたいなイメージがあるけど、その使い道は周囲を照らすことにある。

 灯籠も一種の街灯というわけだ。


 デザインは俺の頭の中に残っている『それっぽい』イメージになる。

 一回デザインを完成させたら、それと同じデザインの灯籠を増やしていく予定だ。

 やっぱり、こういう物は統一感があった方がいいからな。


「まずは台座、そして柱……火の代わりに光魔鉱石を入れる空間を作って、最後に屋根を乗せれば……うん、それっぽいんじゃないかな?」


 美術的なセンスがない俺が作った灯籠は、非常にシンプルな形状で正直オシャレではなかった。

 ただ、この無駄をそぎ落としたデザインには、どことなく神聖さを感じる。


「ガンジョーさんらしくて、すごくいいと思います! 私はこのゴツゴツした感じが好きです!」


 相変わらずマホロは何でも褒めてくれてありがたい。

 一緒にいると自信とか自己肯定感とかがぐんぐん育っていくのを感じる。


 貴族である実家の後継者争いから逃れるために瓦礫の街に来たマホロだけど、彼女には人の上に立って民衆を導く才能があるように思える。


「早速光らせてみましょう!」


「ああ、暗くなって来たしちょうどいい」


 灯籠内部に置かれている光魔鉱石と地の魔宝石を接続し、魔力を流し込んで起動する。

 あらかじめ魔力の量を絞って、あまり強く光らせないようにしておく。

 その結果、光魔鉱石は淡く温かな光を放ち、俺たちの体を照らした。


「おお……! すごく温かい光です……!」


「明る過ぎないけど、全然暗いわけじゃない。ちゃんと周りを照らしているな」


 それにしても、これほどまでに風情ふぜいのある光り方が出来るとは……。

 光魔鉱石の等級が上がる=強く光る程度の認識だったけど、光り方そのものに違いを出すことが出来るようになるんだなぁ。


 この淡く温かな光で街中が照らされる光景を想像すると……何だか気分も上がって来る!

 マホロも同じ気持ちだったようで、腕をバタバタさせながら言う。


「早く街中に設置しましょう!」


「ああ、そうしよう!」

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