第34話 ゴーレムとトロッコ
噴水前でおじさんと別れ、教会に戻って来た俺とマホロはそのまま裏庭に向かった。
現在、裏庭の管理はマホロに任せてある。
毎日ジョウロで畑に水をやり、植物の成長を見守ってくれている。
「植えた物は全部芽が出て来ましたね。このまま大きく成長してくれることを願いましょう!」
大地に栄養、十分な日光、適度な水分。
成長に必要なすべてを手に入れた種や苗たちはぐんぐんと成長している。
実がなるまではまだまだ時間がかかるだろうけど、通常の成長速度よりは早いというのがメルフィさんの見立てだ。
ただ、その早さを維持し続けるには、大地に栄養となる魔力を注入し続けなけらばならない。
住人全員が飢えることのない規模の畑を維持するには、やはり俺から魔力を供給し続けるだけでは無理がある。
大地そのものに魔力を
「ガンジョーさんが持って帰ってくれたお花たちも元気に咲いてます!」
俺がジャングルから持ち帰った色鮮やかな花々をマホロは裏庭に植えている。
この花たちは食べ物にはならないし、薬草のように傷を治せるわけではない。
しかし、眺めているだけで心が癒されるような気がしてくる。
花のある生活というのは良いものだ。
元いた世界で人間だった頃は、花を愛でる余裕もあまりなかったからな。
「ガンジョーさん、明日は廃鉱山に行くんですよね?」
一通り作業を終えたマホロが、道具を片付けながら聞いてきた。
「うん。この世界で生活を快適にするには、魔鉱石の力が必要不可欠だと思った。廃鉱山で純度の高い魔鉱石をたくさん掘り越して来るつもりだよ」
「私もそのお手伝いをしたいんですけど、流石に廃鉱山には入れませんからね……」
「残念ながら、今回ばかりは絶対に連れて行けない。天然のガスは無臭で色もついていない……。どこまでが安全で、どこまでが危険かすらも判断出来ないからね」
「はい! 街でおとなしくお留守番してます!」
「うんうん、マホロは賢い子だ!」
◇ ◇ ◇
翌日――俺は瓦礫の街の南側に来ていた。
おじさんに呼ばれて門を
「ここにレールが敷かれているのがわかるか? これはかつて鉱山で採掘された鉱石を運ぶために使われていたレールだ。複数のレールの上を何台も連結したトロッコが走っていたんだ」
おじさんが指差すレールは均等な間隔をあけて何本も伸びている。
そして、そのすべては南の廃鉱山へ続いている……というわけだ。
「どれも錆びて、中には途中で途切れているレールもある。だが、この一本はまだレールとしての
「ですので、俺自身がトロッコになります」
「……は?」
おじさんは首を
その頭の上に『?』が浮かんでいるのがわかる。
「昨日、また新しい力が目覚めたんです。その力と
瓦礫の海の中を探索して、レールが存在すること自体は前から知っていた。
しかし、現状では使い道がないとして、その情報を頭の片隅に押し込めていた。
だが、昨日の魂の適応を経て、ゴーレムの体はもっと自由な発想で動かせると知った。
レールを活用するアイデアはすでに完成している。
「まずはレールの上に正座して……」
脚を折りたたみ、
人間の体でこれをやったら拷問だが、ゴーレムの体なら問題ない。
「次に車輪をイメージして……」
レールにガッチリと噛み合う大きな車輪を脛の部分に作り出し、その車輪を昨日の手首のようにぐるぐる回転させることが出来れば……。
「わあっ! ガンジョートロッコの完成ですっ!」
見送りに来ていたマホロが歓声を上げる。
俺は試行錯誤の末、体の一部となった脛の車輪を回す感覚を覚え、レールの上を自由に進むことが出来るようになった。
「これなら走るよりも速いんじゃないですか!?」
「レールの状態によるけど、すべてが万全ならダッシュよりも速いし揺れも少なくなるね」
「ガンジョーさんのお尻に普通のトロッコをくっ付ければたくさん物も運べそうです!」
レールの上に正座して加速し、尻にトロッコを連結する。
人間では考えられないことも、自分がゴーレムであると自覚した今なら実現出来る。
「おお……お前さんたちは本当にすごいな……!」
おじさんは感心しつつも、少し引いているように見える。
まあ、普段から俺と行動しているマホロはゴーレムに慣れ過ぎているからな。
彼女のようには変化を受け入れられないのが普通だ。
「おじさん、これで廃鉱山を目指そうと思います」
「あ、ああ……そうだな、頑張ってくれ! 尻に連結するためのトロッコなら、鉱山の中に何台も放置されているはずだ。それを使って掘り当てた物を運んで来るといい」
「ガンジョーさん、行ってらっしゃい!」
マホロとおじさんに見送られ、ガンジョートロッコは瓦礫の街を出発した。
最初の走行だから、走りながらレールの補修も行っていこう。
このレールをこれから何度も利用することになりそうだからな。
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