第33話 ゴーレムと魂の適応

〈ガイアゴーレムの体とガンジョーの魂の適応が進んだ結果、ガイアゴーレムの声たる『ガイア』を他者へと届けられるようになりました〉


「……みたいだね」


 このガイアさんの声もマホロに聞こえているので、俺が伝言をする必要はなくなった。

 マホロも「おーっ!」と言って興奮している。

 

「ガイアさん! 私、一度ちゃんとお礼が言いたかったんです! いつもガンジョーさんのことを支えてくれて、ありがとうございます!」


〈あなたが導いた魂に従い、守護神としての役割を果たすのみです。マホロ・ロックハート〉


「これからもよろしくお願いします!」


〈はい〉


 ガイアさんの返答はいつも通り無機質だが、マホロにとっては話せること自体が嬉しいようだ。


「さて、そろそろ教会に戻ろ……おっとっと」


 歩き出そうとした俺の体がよろめく。

 今日は建物の再建、畑への魔力注入インジェクション、そして噴水と結構魔力を消費している。

 疲労感はそれなりにあるし、ボケッと歩いていたら転んでしまうな。


「大丈夫ですか?」


「ああ、ちょっと油断しただけだよ。一晩休めば元に戻るさ」


 気を取り直して教会に帰ろうとした時、噴水の前におじさんが現れた。

 教会の前に住んでいて、いつも俺に有益な情報をくれるあのおじさんだ。


「ほおーっ! これまた立派なもんを作ったもんだっ! やるなぁ~、ゴーレムの旦那!」


 噴水のガンジョー像を見て感嘆の声を上げるおじさん。


「これが水の噴射口にもなってるんだろう?」


「そうなんですけど、噴水としては少々不便な作りになってるんですよねぇ」


 俺はさっきの水の噴射を見ていないおじさんに、噴水のことをサクッと説明した。

 そうすれば、何かアドバイスを貰えるかもしれない。

 おじさんはうんうんとうなずきながら話を聞き終えると、笑顔で口を開いた。


「なるほど! 魔礫石を混ぜ込むとはなかなか良いアイデアだ。でも、像に直接触れて魔力を込めている間しか水が出ないから困っているとな」


「そうなんです」


「うむ、まあ……現段階ではどうにもならんな」


 おじさんはあっけらかんと言った。


「前の噴水は勝手に自然の魔力を集めて水を生み出す魔業石まごうせきが中に入っていたから、ずっと水を噴き出し続けていたに過ぎない。魔業石が失われた今、同じ方法での再現は不可能だろう」


「やっぱり、そうなりますかね……」


「ただ……魔業石は無理でも、魔宝石まほうせきは手に入るかもしれん。その魔宝石の属性によっては、噴水を再現することも可能だ」


「えっと、魔業石じゃなくて魔宝石まほうせき?」


 いろんな石がこの世界には存在するんだなぁ。

 ゴーレムの頭脳を手に入れる前の俺だったら、こんがらがっていただろう。


「魔宝石とは超純度魔鉱石の別名だ。自然魔力を固形にしたような存在で、その純粋さは宝石のような美しい輝きを放つ。ゆえに魔の宝石!」


 確かにオアシスの地下に眠る超純度魔鉱石は、常に力を発揮し続けている。

 自然魔力を集めて動く魔業石、自然魔力そのものの魔宝石。

 違いはあるが、自然の力で永続的に機能するという面は一緒だな。


「そもそも魔業石は人工的に魔宝石を作ろうとして誕生した代物……。オリジナルである魔宝石が手に入れば、魔業石の代用など造作ぞうさもない。まあ、それがなかなか手に入らないから、人工魔宝石計画などが生まれるのだが……」


「でも、今その魔宝石が手に入る可能性があるからこそ話題に出した……ですよね?」


「その通り! 流石はゴーレムの旦那だ。もう、どこにあるのかもお察しでしょうな」


「可能性があるとすれば、南の廃鉱山ですよね」


 おじさんは力強くうなずいた。


 街の南にある廃鉱山は、採掘中にガスが噴出した結果閉山へいざんとなった場所だ。

 つまり、その中にはまだ未採掘の魔鉱石が眠っていてもおかしくはない。


「人を簡単に殺しちまうガスも、岩石の体を持つゴーレムの旦那には通用しない! 鉱山に残ってるもんは全部採り放題ってわけだ! まあ、何がどれくらい残ってるのかは、俺たちに知りようがないし、まったく何も残ってなかったら……その時は期待させてすまんかったと謝る」


 いや……以前ガイアさんは、街の土に込めた魔力が四方に吸い取られていると言っていた。

 おそらく廃鉱山にもあるんだ。西のオアシスと同じように超純度魔鉱石――魔宝石が。


 魔宝石を採掘し、この街の大地に埋めることが出来れば、他の大地とのパワーバランスが拮抗し、土に込められた魔力も吸い取られなくなるはず。


 そうすれば、俺が畑に魔力を注入する必要もなくなる。

 その分の時間と魔力を、また別の作業に使うことが出来る。


「いつも、有益ゆうえきな情報をありがとうございます。おかげさまで次にやるべきことが見つかりました」


 俺はおじさんに頭を下げる。

 ゴーレムの体は大きいので、あまり下がっているようには見えないけど……。


「鉱山に行くんだな。何が残ってるかはわからんが、魔鉱石ってのはあればあるほど便利で、出来ることが広がっていく。ガスが満ちているから魔獣も近寄らない場所だし、心ゆくまで探索してくればいい……」


 おじさんはどこか遠くを見つめていた。

 その方角は南――廃鉱山がある方だ。


 まだこの街が活気に満ち、鉱山も動いていた時代からおじさんはここにいる。

 なぜ瓦礫だらけになってしまった街から離れないのか……今はまだそれを尋ねる勇気がない。


「はい、明日にでも廃鉱山をこの目で見て来ます」


 そこに行けば、この疑問の答えが見つかるかもしれない。

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