第35話 ゴーレムと廃鉱山
レールの上をしばらく走行していると、目的の廃鉱山を視界に捉えることが出来た。
ジャングルやオアシスに比べれば、廃鉱山は街から近い位置にあるようだ。
まあ、鉱山によって栄えた街なのだから、あまり鉱山から離れた場所に作るはずはないものな。
ごつごつとした岩が転がる地形を抜けると、山肌にぽっかりと空いた大きな穴が見えて来た。
これが鉱山の入口……。レールはその中まで続いている。
掘り出した鉱石を鉱山の中でトロッコに乗せ、そのまま一直線に街まで運べるというわけだ。
「それにしても、大規模な鉱山だったんだな……」
採掘のための穴が空いている山以外にも、表面を削り取って採掘が行われていたであろう山もある。
人工的に作られた足場や、硬い岩盤を削るためのドリル、そして採掘した物を運搬するトロッコも放置されている。
ガス事故が起こった時から、ここは誰も立ち入れない場所になった。
それが何年前に起こったのか俺は知らないけど、その瞬間からこの鉱山の時間は止まったままなんだ。
あまり深く考えると、しんみりとした空気に
体の形状を通常フォームに戻してレールから降り、大げさに体を動かして気分を上げる。
まずはまだ使えそうなトロッコを探そう。
鉱山から掘り起こした鉱石を、そのトロッコに入れて街まで運ぶんだ。
「おっ! このトロッコは中身が入ったままだな」
運び出せずに置いて行かれたんだな。
レールの上に放置されていたトロッコの中には、白く輝く鉱石がたくさん入っていた。
その一つを手に取り、ガイアさんに正体を尋ねる。
「ガイアさん、これは何の鉱石かな?」
〈光魔鉱石【等級:B】です〉
おおっ、光魔鉱石は等級が上がると白色がこんなに美しくなるのか。
俺がマホロから貰った等級Eの石とは雰囲気が全然違う。
まあ、俺の場合は等級Eでもまぶしいくらいに輝かせるから、そこまで必要なものじゃないな。
夜の街を明るく照らす街灯にするのがベストなんだけど、結局誰かが魔力を込め続けないと輝かないのがネックなんだよなぁ……。
誰が触れることがなくても輝き続け、空が明るくなったらオフになる仕組みがないと、瓦礫の街に街灯を設置するのは難しそうだ。
「とりあえず、このトロッコごと持って帰ろう」
来るときに使ったレールにトロッコを移し替えておく。
帰る時は俺の尻にトロッコを連結して引っ張って帰る。
他にも鉱山の外に放置されている物を確認して回り、使えそうなものはトロッコに入れておく。
現段階ですでに実りのある探索になりつつあるが、本番はこれからだ。
「近くまで来ると、よりその力を強く感じる……。周囲の大地から魔力を吸収している超純度魔鉱石――魔宝石がこの鉱山の奥にあるな」
ゴーレムの巨体も余裕を持って受け入れられるほど広い
そこら中から魔鉱石の気配を感じるが、今回はこの奥にある魔宝石を持ち帰ることを一番の目的にする。
魔宝石があれば、瓦礫の街の
「まるで迷路みたいに道が伸びているな。さて、どれが一番奥まで伸びているのか……」
頭に光魔鉱石を取り付け、そこから発する光を頼りに進む。
まるでお宝を探す探検家のような状況に、俺の気持ちは高ぶっていた。
しかし、俺が一番最初に見つけた物は……人骨だった。
冷静に考えれば、この発見は予想外でも何でもない。
突然のガスの噴出で鉱山が閉じられたのなら、その際に逃げ遅れた人がいても何もおかしくはない。
鉱山は深く入り組んでいて、分かれ道も多い。
危険を知らされないままガスが満ちて、理由もわからないまま亡くなった人だっていただろう。
そして、高性能なガスマスクなどがこの世界に存在しないのなら、
時が流れて白骨化した亡骸は一人や二人ではなかった。
奥へ進むごとに、また新たな亡骸と遭遇する……。
俺は彼らのことを何も知らない。
文字通り、住む世界が違ったのだから知りようもない。
それでも……何年も何年もここに放置された彼らを見ると、一緒に街に帰りたくなる。
あまり霊的なものを信じるタチではなかったが、今の俺は死んだ後の魂がゴーレムに宿って異世界に転生した存在だ。
無念の死を遂げた彼らの魂を、俺なりのやり方で導かないといけない気がする。
せめて、残った骨だけでも彼らが生きたあの街へと……。
「帰ろう、必ずみんなで。だから、あと少しだけ待っていてほしい」
正しく
まずはお墓を建てるための区画を作り、受け入れる準備をしなければ。
決意を胸に、俺は本来の目的を果たすため行動の奥へ進む。
魔宝石を持って帰らないと、今の街で生きている人が困る。
生きることに余裕を持てなければ、亡くなった人を想うことなんて出来ないんだ。
真っ暗な坑道に俺の足音だけが響く。
奥へ奥へ……そうして俺はついに行き止まりの岩盤にたどり着いた。
「感じる……この岩盤の向こうに強い魔力を。それもこれは地属性の魔力!」
ガイアゴーレムである俺たちと同じ地属性ということは……何が出来るんだろう?
オアシスの魔宝石は水属性だから水を生み出していたし、地属性なら土や石を生み出してくれるとか……?
うーむ、それも掘り起こせばわかることか。
俺は両手で岩盤に触れ、ガイアさんに呼びかける。
「ガイアさん、この岩盤を掘って中の魔宝石を取り出したいんだ」
〈……他の物質から発せられた魔力の影響が強く、岩盤に対して究極大地魔法を行使することが出来ません〉
「えっ……!?」
ガイアさんの力も及ばないくらい、この魔宝石の力は強いのか!?
魔法で掘り起こせないとなると、かくなる上は鉱山に放置されていたドリルを使って物理で掘り起こすしかない……。
ただ、ガスが引火して爆発するタイプだとすると、それも今は難しい。
ドリルなんて使ったら確実に火花が散るし、俺が爆発に耐えられても街に帰るべき人たちの骨が吹っ飛んでしまう。
〈
ガイアさんの声が頭の中に響く。
よくわからないが、言われるがまま手を岩盤に触れさせておく。
すると、体の神経が手のひらから先へと伸びていく感覚を覚えた。
どんどんと岩盤の中を伸びていく神経はやがて、温かな塊へと到達した。
〈接続開始…………情報をフィードバック……再送信…………情報を入力……〉
あまり詳しくはないが、何だかパソコンとインターネットをつなぐ作業のようだ。
俺は口を出さずに静かに待つ。
ガイアさんのことは心の底から信用している。
〈接続完了。魔宝石を取り出します〉
俺の方にもカチッと
そして、オレンジ色に輝く巨大な宝石がスゥ……っと岩盤の中から出現した。
それはまるで、岩盤が液体になったような……。
水面から物質が浮かび上がってくるような光景だった。
「これが魔宝石……!」
縦一メートル、横はその半分くらいの縦長の塊だ。
宝石の原石ではなく、この大きさの塊すべてが宝石と呼べるほど混じりけのない純粋さで、真っ暗な坑道の中でそれ自体が
この魔宝石と自分がつながっている感覚はまだある。
でも、それは神経のつながりではなくなり、もっとこう……形のない
目を離したり、少し離れても、この魔宝石の存在を感じ取れる……みたいな?
「ガイアさん、これがあれば瓦礫の街の大地を魔力で満たすことが出来ますか?」
〈地属性超純度魔鉱石【等級S】――通称『地の魔宝石』の力があれば、あの範囲の大地を魔力で満たすことは容易です。また、地の魔宝石には他の魔鉱石に力を分け与える能力もあります〉
「それはまた、いろいろと出来ることが増えそうですね」
分け与えるの意味がまだ掴み切れないが、他の魔鉱石の性能を底上げしてくれるなら結構使い道は多そうだ。
足元に気をつけながら来た道を引き返し、用意しておいたトロッコに地の魔宝石を入れる。
放置されていた光魔鉱石が入ったトロッコと、いろんなものをごちゃごちゃ入れたトロッコ、そして地の魔宝石が入ったトロッコ――合計3台を連結する。
そして、それをレールの上に正座した俺の尻に連結する。
トロッコの連結部分はまだ加工が苦手な金属だが、流石に俺の体にくっつけるくらいは簡単だ。
「さあ、出発だ」
脛に作った車輪を回す……が、最初は尻にくっついたトロッコが重くて動かなかった。
もっと気合を入れて、車輪の回転を強くイメージする……!
「ふん……っ!」
俺は動き出した。一度動き出せば最初ほど
ガタゴトとトロッコを揺らしながら、俺は瓦礫の街への帰路を急いだ。
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