第6話 ゴーレムとショベル

 扉は瓦礫の中に埋もれていて、無理やり引っ張り出せばガラガラと大きな山が崩れそうだ。

 ここは安全に配慮し、1つずつ瓦礫を除去してから扉を取り出そう。

 ゴーレムの硬くて大きい手なら、瓦礫に直接触れても怪我をすることはない。


「私も手伝います!」


 そう言ってマホロは素手で瓦礫を動かし始めた!


「待った待った! そんなことしちゃ怪我するよ! 瓦礫の除去は俺に任せてくれ」


「でも、見てるだけなんて申し訳ないです。私もお役に立たなければ!」


 その気持ちはわかるし、ありがたいんだが……俺にとっては瓦礫の除去より、人の怪我を治す方が難しいんだ。

 手伝うにしても、素手で瓦礫に触れるのは見過ごせない。


「うーむ……おっ、これは……!」


 足元には錆びついたショベルが何本か転がっていた。

 今の俺に新しい金属製品を作り出す力はないが、元々ある金属製品の修復は可能。

 このショベルを修復して新品同然の頑丈さを取り戻せば、瓦礫の除去にも使えるはずだ


「ガイアさん、この錆びたショベルを修復出来ますか?」


精査スキャン――――結果リザルト:完全修復可能。実行しますか?〉


「お願いします」


 錆びついたショベル数本を素材に、新品のショベル一本を作り出す。

 完成したショベルは持ち手の部分が長く、先端が四角形になっている角形かくがたショベルだった。


 マホロみたいな女の子が持つには少々サイズが大きくデザインも無骨ぶこつだが、ちょっとやそっとじゃ壊れない頑丈さを感じる。

 仕事道具には見た目の良さより信頼性があればいいんだ。


「マホロ、これから瓦礫をどかす時はこのショベルを使ってほしい。俺には人の傷を癒す力はないから、出来る限り自分の体を大切にしてほしいんだ」


 マホロにショベルを手渡すと彼女は「おー!」と歓声を上げ、ショベルを武器のように構えた。


「カッコいいです……! ガンジョーさんから貰ったショベル、大切にしますね!」


「ああ、そうしてくれると嬉しい。しつこく言うけど自分の体を第一に考えてほしいんだ」


「はい!」


 わかってくれたと思いたいが、ショベルでガツガツ瓦礫をどかす姿を見てると、あまり伝わり切ってないような気も……。


 まあ、マホロも何だかんだまだ子どもということだな。

 過酷な人生を歩んできた分、同世代の子よりは大人っぽいけど、新しい物を貰って喜ぶ姿は年相応といった感じだ。


「こらこら、あんまり振り回すと危ないよ」


 マホロをたしなめつつ、瓦礫に埋まっていた四つの扉を取り出す。

 その扉をそれぞれ東西南北の四方向に振り分け、防壁のモデルの近くに置く。


 さらに扉がある場所は少し防壁の高さを盛って、ここに出入りするための門があると離れた位置からでもわかるように一工夫を加えた。

 これで準備は完了だ!


「モデルの近くに人は近づいてないな……っと」


 防壁の素材は当然そこらへんに転がっている瓦礫が主になる。

 近くに人がいると、動く瓦礫に巻き込まれて危ないから事前のチェックは大切だ。


「安全確認ヨシ! ガイアさん、命令を実行してください」


命令実行エグゼキュート――――〉


 教会を修復した時と同じように無数の瓦礫がひとりでに動き出し、防壁のモデルに忠実な形へと組み上がり混ざり合っていく。


〈――――命令終了コンプリート


 実行からわずか一分足らずの間に、立派にそびえる防壁が完成した!


「ちゃんと扉が綺麗に組み込まれているし、防壁自体も頑丈そうだな」


 防壁に手で触れてみると、その硬さというか丈夫さが伝わってくる。

 ゴーレムの剛腕をもってしても簡単には壊せなさそうな防壁は、きっと瓦礫の街の人々を魔獣から守ってくれることだろう。


「ガンジョーさんの力……実際に見ると想像以上にすごいです!」


 マホロは飛び上がって大喜びだ。

 これだけで防壁を作った甲斐かいがあるというものだ。


「喜んでくれて嬉しいよ。ただ、さっきからちょっと体がだるいんだよな……。ゴーレムの体が疲れるってことはないと思ってたんだけど……」


「それはきっと大量の魔力を一度に消費したからですよ。これだけ大きな建造物を作った後なら、当然の疲労だと思います」


「なるほど、究極大地魔法だもんな。そりゃ魔法には魔力が必要か……」


 後先考えず何でもかんでも作っていたら、そのうち寝込むことになりそうだ。

 ガイアさんが持つ魔力の量が多いからか、今は少しだるい程度で済んでるんだろうな。


「魔力は体力と一緒で、休んでいれば回復します。しんどい時は言ってくださいね」


「ありがとう。でも、まだまだ大丈夫さ」


 防壁の次に作りたい物が出来た。

 3メートルもある壁で囲った結果、街の中から外の様子が確認出来なくなってしまったんだ。

 それを解消するため、簡素でもいいから高さのある見張り台が欲しい。


「ガンジョーさん、何か思いついたんですね?」


「ああ、この防壁の向こうを見通せる見張り台を作ろうと思ってね」


「おおっ! それは素晴らしいです! 満月の夜には狂暴化した魔獣が押し寄せて来ますから、防衛のための建物はもっと必要ですよね!」


「そうそう……うん? え、満月の夜には……何だって?」


 マホロが当然のことのように言った言葉が引っかかり、俺はもう一度確認する。


「あ……言ってませんでしたっけ? 満月の夜は魔獣が狂暴化するので、それだけ街に魔獣がやって来る可能性も高まるんです。というか、ほぼ確実にたくさんの魔獣が来ます」


「それは……初耳だな」


 自分が思っている以上に重要な物を、俺は作り上げたのかもしれない。

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