第7話 ゴーレムと魔鉱石
「ちなみに魔獣ってどんな姿をしてるのかな?」
俺が想像しているのは動物の姿をベースにした怪物だが、もしかしたら形容しがたい異形の生物がこの世界にはいるかもしれない。
なんてったって、ここは異世界なのだから……。
「それはそれはいろんな魔獣がいて、姿かたちも多種多様です。街の周囲の荒野に生息しているのは、オオカミやハイエナに似た四足歩行の魔獣や、タカやワシに似た飛行魔獣ですね」
マホロの言った動物が俺の知っている動物と同じだとすれば、どうやらこの世界の魔獣は俺の想像と近い姿をしているようだ。
うねうねしたよくわからない生物がたくさんいるとか言われなくて良かった良かった。
「満月の夜に襲来するのは四足歩行の魔獣が多いです。夜の飛行魔獣はあまり活動的ではありませんから、たとえ満月の夜でも狩りはしないみたいです」
飛んでる敵を相手にしなくていいのはありがたい。
いくらゴーレムの体が頑丈で力持ちといっても、空を飛んでる敵に拳は当たらないからな。
「そのオオカミやハイエナに似た魔獣は俺でも倒せるかな?」
「それはもう楽勝だと思います! いくらあいつらの牙や爪が鋭いからといって、ガンジョーさんの岩石の体を砕くことなんて出来ません! 重いパンチ一発でノックアウトですよ!」
めっちゃマホロが褒めてくれて、なんだか嬉しくなってくる。
それはそれとして、この情報は大変重要だ。
俺が魔獣を簡単に倒せるなら、満月の夜に俺だけ防壁の外に出て魔獣を狩りまくればいい。
そして、狩った魔獣の肉を瓦礫の街のみんなにプレゼントすれば信頼も得られる。
街の再生にはそこに住む人々との協力が必要不可欠だ。
俺はみんなにとって信頼出来る存在にならなければならない。
「ありがとう、マホロ。満月の夜が来ても、俺が魔獣と戦うから安心してくれ」
「ガンジョーさん、頼もしいです! 明日の夜はよろしくお願いしますね!」
「ああ! あ……? 満月の夜って明日なの?」
「はい! 今日の夜は満月一歩手前で、明日の夜は綺麗な満月になります! 私、いつも空を見てお星さまを観察してますから、これは正確な情報です!」
「りょ……了解」
マホロって大事なことをしれっと話すから、なかなか油断ならない子だな。
でも、それだけいろんなことを知ってるのは立派だ。
知識はいざという時、命を救ってくれることもある。
「なら、急いで見張り台を作らないとな。ガイアさん、
〈
俺が頭の中で思い描いた見張り台、そのままのモデルが目の前に現れる。
形状は四本の柱で四角い足場を支えるシンプルな構造だ。
足場から落下しないように手すりを取り付け、上に登るためのハシゴも用意する。
高さは当然防壁より高くして、瓦礫の海の向こうに広がる殺風景な荒野を見渡せるようにしよう。
「屋根は……また必要だと思ったら後から増築するか。よし、ガイアさんお願いします」
〈
周囲の瓦礫を利用し、質素ながら堅実な作りの見張り台が完成する!
〈――――
「うん、良い出来栄えだ!」
瓦礫を素材にしているから、全体がくすんだ灰色になっている。
雰囲気は地味だが、俺の身長を超える大きな建造物だし迫力はそれなりにある!
「うわぁ……! 登ってみてもいいですか?」
「ああ! 崩れないとは思うけど、焦らず慎重に登ってね」
「わーい!」
マホロは大喜びで上に登るためのハシゴへ近づく。
しかし、ハシゴの手前まで来たマホロはその場にうずくまってしまった。
「大丈夫か!? どこか体の調子が……!」
「あっ、びっくりさせてごめんなさい! 足元に転がってた魔鉱石を拾っただけなんです!」
「それならいいんだ。それで……その魔鉱石というのは?」
マホロの手には白に近い薄黄色の石が握られている。
確かにそこらへんに転がっている石とは雰囲気が違うけど、さほど綺麗な石というわけでもない。
「外部から魔力を込めることで、様々な現象を起こすことが出来る鉱石です。その中でもこれは
マホロの持つ石がピカッと光を放った!
なるほど、光魔鉱石はその名の通り魔力を込めると光を放つんだな。
「この街では火を灯すための木材すら貴重ですから、魔力で光を得ることが出来る光魔鉱石はとても重宝します。特に夜の間はこれがないと困っちゃいます」
「ほう……。そんな貴重な物が瓦礫の中に混じっているとは。探せばまだまだたくさん見つかるのかな?」
「どうでしょうね……。魔鉱石は便利な代物ですから、この街が完全に廃れる前に大多数が持ち出されてしまったと思うんです。等級の高い魔鉱石ならいい値段で売れますし、そのまま新天地での生活に利用するのもアリですから」
便利で希少な物だからこそ、この街を捨てて出て行ったかつての住人たちに、ほとんど持っていかれちゃったってことか……。
まあ、引っ越す時に金目の物を置いていくわけないしなぁ。
「この光魔鉱石は等級が低い物だと思います。等級が低いと魔力を込めても発揮する力が弱く、魔力の消費効率も悪いです。なので、そこらへんの石ころみたいに捨てていかれたのかも……」
「それでも、俺たちの生活の役には立ちそうだね」
「はい! この光魔鉱石はガンジョーさんにあげます! 放つ光は弱くても、夜間は明かりがあるのとないのとでは大違いですから」
「ありがとう! 大事に使わせてもらうよ」
マホロから光魔鉱石を手渡され、俺はそれを……どこにしまおうか?
服なんて着てないからポケットはないし、カバンも持ってない。
とはいえ、ずっと手に持っておくわけにはいかないし……と俺が悩んでいると、手のひらの光魔鉱石がすぅ……っと俺の体に入り込んで来た!
〈光魔鉱石【等級:E】を
「ガイアさん、その
〈地属性物質を体内に混ぜ込む形で保管する機能です。地属性物質とは、砂、石、岩、金属などが該当します〉
なるほど、究極大地魔法で扱える範囲の物質を体に入れておけるのか。
鉱石だけじゃなく金属まで取り込めるなら、いろいろと持ち運びが便利になりそうだ。
「ガンジョーさん、せっかくですから一度光魔鉱石を光らせてみたらどうですか? 初めての人は魔力を込めるコツがわからないこともありますから」
「そうだね。ガイアさん、光魔鉱石を取り出してください」
すぅ……っと俺の右手に光魔鉱石が再び現れる。
魔力を込める感覚というのはわからないが、とりあえず手のひらに意識を集中させて……。
「むむむ……!」
光魔鉱石は俺の意志に応えた。
爆発したかと思うほど、まばゆい閃光を放ったんだ!
「うわああああああっ!」
「ぎゃーーーーーーっ!」
悲鳴を上げる俺とマホロ。
すぐに魔力の供給を断ち切ると、光魔鉱石は元の薄黄色の石ころに戻った。
「び、びっくりしました……! 等級の低い魔鉱石があれほどの力を発揮するなんて……! やっぱりガンジョーさんは特別な存在なのかもしれません!」
「確かに石の扱いに関しては、他とは違う特別な力があるようだ……」
「でも、毎回あんなに光らせてたら近所迷惑になっちゃいます! 魔力の調整は覚えないといけませんね」
「ど、努力します……」
強すぎるの力は周りに迷惑をかける……。
新たな教訓を得た一件だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます