第5話 ゴーレムと防壁

 まずは街の全体を確認するため、マホロと一緒に教会の外に出る。

 さっきのおじさんがいたら挨拶をしようと思ったが、今はどこかに行っているようだった。


「防壁のスタート地点はこの教会からになると思います。この教会の裏庭から向こうには、誰も住んでいませんからね」


 教会の裏にはボロボロになった庭が広がっていた。

 かつて花壇だったであろう場所には、ゴミ同然の枯葉や枝が散らばるのみ。

 庭を囲っていた塀もすべて崩れ去っている。

 池のようなくぼみもあるが、当然そこに水はない。


「ここからぐるーっと街を回って……」


 マホロの背中を追って街の周りを歩く。

 どこもかしこも瓦礫だらけで、まるで『瓦礫の海』だ。

 大量の瓦礫が出るということは、それだけたくさんの建物があり街が栄えていたということ。

 一体なぜこんなにも衰退してしまったんだ……?


「……はい、教会に戻ってきました。今歩いたルートがそのまま今の街の外周になります」


「思っていたより小さいな……」


 瓦礫の海の3分の1……いや、もっと小さいかもしれない。

 全盛期の街の中心部にギュッと人々が身を寄せ合って生きている感じだ。


 街のすべてを囲えと言われたら結構苦戦していたと思うけど、この範囲ならガイアさんの力で何とかなりそうな気もする。

 早速、命令コマンドを出してみよう。


「ガイアさん、俺が指定する場所に防壁を作ってほしいんです」


命令コマンド:防壁の建造〉


 ガイアさんが命令を復唱する。

 後はそれが実行可能かどうかだが……。


仮想造形モデリング――――〉


 ガイアさんは前回とは違う言葉を発した。

 同時に、俺の目の前に3Dポリゴンで作られたような壁が現れた!


「これは……クラフト系のゲームでよく見る、建造物を設置する位置や向きを確認するのに便利な仮のモデルみたいな……?」


 目の前の壁は半透明で、ほんのりと発光している。

 触れることは出来ないし、まだ壁としての役割は果たしていない。


「えっと……それじゃあ、もう少し高めにしてください」


 壁のモデルはにょんっと上に伸びる。

 それも俺が頭の中で思い浮かべた高さに……だ。


「理想のモデルを作ってから命令実行エグゼキュートしろってことなんだな」


 一応は原型が残っていた教会の修復と違い、今回の防壁は1から作り上げる物になる。

 その形状は命令を実行する前にキッチリ決めなければならない。


「それなら、もう少し高さも考えるべきだな」


 モデルを何度か変形させて、しっくりくる高さを探す。

 最終的には3メートル強……つまり、今の俺の身長と同じくらいになった。


「これくらい高かったら魔獣も入ってこれないかな?」


 マホロに尋ねてみると、彼女は大きく首を縦に振った。


「跳躍力に優れた魔獣も、この高さは跳び越えられないと思います。後は分厚さと頑丈さがあれば、よほど強力な魔獣が現れない限りは安心です」


「よし、厚みと頑丈さも増しておこう」


 厚みはそのままモデルを分厚くすればいい。

 頑丈さは……とりあえず命令を口に出して、ガイアさんにお願いしておけば何とかなるだろう。


「これで基礎は出来たな。後はこの壁のモデルを伸ばして、街をぐるりと囲っていこう。ガイアさん、俺がさっき歩いたルートにモデルを展開する事は出来ますか?」


〈可能です。仮想造形モデリングを展開します〉


 次の瞬間、1枚の板のような壁のモデルがどんどんと引き延ばされ、街全体を囲う壁のモデルに早変わりした。

 ガイアさんも俺たちの行動を見ているから、こういう命令も聞いてくれるんだな。


「すごいです……! これがガンジョーさんの力なんですね!」


「いや、俺というより一緒に体の中に入ってるガイアゴーレム……ガイアさんの力かな。マホロにはガイアさんの声は聞こえないのかい?」


「はい、残念ながら聞こえません……。でも、このモデルというのは見えてますよ」


 ガイアさんの声が聞こえるのは俺だけか……。

 でも、ガイアさんには俺が見たもの、聞いたことが伝わっているようだから、そこまで不便というわけではないな。


「さて、歪みを補正して出来る限りモデルを円形に近づけたら、後は命令の実行を……」


「待ってくださいガンジョーさん! このままだと防壁に出入口がないです! 帰って来たメルフィが締め出されてしまいます!」


「た、確かに……」


 防壁の各所に扉を設置しなければ、人々を閉じ込めるおりになってしまう。

 命令を実行する前に指摘してもらえて助かった……。


「ガイアさん、防壁に扉を組み込むことは可能ですか? 素材は金属で両開き、かんぬきで施錠出来る形にしたいんですけど……」


〈現在の究極大地魔法では、金属を完全に操ることは出来ません。新規の金属製品を作成することは不可能です〉


「うーむ、それは弱ったな……」


 動かしやすいように薄く軽く、それでいて強度も得るためには、岩石よりも金属の扉の方がいい。

 でも、金属製の新しい扉は作れないと断言されたし……。


「……そうだ! ガイアさん、瓦礫の街の中から金属製の扉を探すことは可能ですか?」


〈可能です。大きさや形状など条件付けを行うと、より正確に目当ての物品を探せます〉


「条件はまず何より金属製で大きさ3メートル以上、形状は両開きが条件。それを……いくつくらい探せばいいかな?」


 マホロに意見を求めると、彼女はすぐに答えてみせた。


「出入口は東西南北にそれぞれ1つずつ、計4つあると嬉しいです!」


「よし、条件に見合う扉を4つ探してほしい」


精査スキャン――――〉


 俺の足元から光の波紋が周囲に広がっていく。

 数秒後、ガイアさんからの返答が来た。


結果リザルト:条件に見合う扉を複数発見しました。その中からより大型で状態の良いものを4つピックアップし、目印ピンを置きます〉


 瓦礫の街の中に4つの光の柱が現れた。

 あの光の下に目当ての扉が転がっているというわけだ。


 扉を作ることが出来ないなら、ある物を再利用すればいい。

 元々この街はかなり栄えていたっぽいし、大きな扉だって残されていると思ったんだ。

 それを防壁の中に組み込めば、人間が自由に出入り出来る防壁になる。


〈使用する素材を仮想造形モデリングに近づけてください〉


 ガイアさんの言葉に従い、俺たちは4つの扉の回収に向かった。

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