第93話 唯一無二の“特別”――その力。


「あなたを解放する――それが、私の親孝行だ」



 シルフィがエニュールへと向けて言う。

 その宣言が風に乗り、昇って消える。


 直後、熱風は噴き荒れる。



【Cスキル:業炎ゲヘナ――発動】



 エニュールから変質した黒竜。

 そのドラゴンが炎のブレスを噴く。

黒き炎のブレスを噴き付ける。


 カプラがふわりと触れる感覚。

 それから、ブレスの衝撃に飛ぶ。

そのに、俺らは飛ばされる。



【EEE……C――Eスキル:数値変換メタトロフィス



 バグった様に重なる機械音声。

 それを合図に、カプラのスキルが発動。

彼女の障壁が起動。

カプラに触られた俺らに、付与された障壁が起動。


 鉱石の壁に激突するも痛くない。

 カプラが付与した障壁により、俺らは守られた。

彼女は今や、二人以上の他者にも障壁を付与できる。



「お前……スキルレベルが……上がったのか」

「違う……やり方が分かってきただけ……ゴホッ」



 起き上がる俺とカプラ。

 まだ地面に転がったままのシルフィ。

その間近に迫る――影。


 短剣を振り上げる、似非生贄の町娘。

 彼女の羽織るマントがはためく。



「カプラ――剣ッ!」

「クソ……それが女の子に対する態度なの!?」



 前から思っていただろう一言。

 それを叫び、カプラが持っている長剣を投げる。


 シルフィに迫る娘へと、一直線に飛ぶ刃。

 俺は、その長剣の刃の軌道を追い、走る。


 刃があと少しで届く、その娘の肉を断つ間際。

 その瞬間、短剣を持つ娘が静止する。

その刹那を――俺は見逃さない。



【Eスキル――引力ヴァリタス、発動】



 町娘に刺さりかけた長剣を引き寄せる。

 スキルによって、それを自らの手に引き寄せる。

そして、その刃――ではなく、横っ面で町娘の首の後ろを殴る。

峰打みねうちならぬ、平打ひらうち。



【Eスキル:戦闘補助ヤハタ、発動】



 殺すのではなく、気絶させるだけの技術。

 そんな高度な技を使う為、俺はそのスキルを起動した。

無意識的に、殺さない事を選択した。


 洗脳された相手との戦闘は二度目。

 “白光”を発動させる時、俺は覚悟も決めたはず。


 初めて迷いを感じる。

 そんな俺の耳に――水音。

そして、声。



「ユウ……キリヤユウ――ッ」



 シルフィの声。

 それで顔を上げて、気付く。

俺達が、生贄と呼ばれし者どもに、囲まれている事。



「シルフィ……」

「……何だよ」

「さっきから、水音が聞こえてさ。何なんだこれ」

「今聞く事か、それ……――多分エーテル溶液だな」



 俺は上を見る。

 半透明な鉱石の天井が、ひび割れている。

そのヒビの向こうに、流れる“水”が見える。



「エーテル鉱石ってのは俗称でな。昔は魔晶石ましょうせきとか魔氷石まひょうせきって呼ばれてた……氷みたいにエーテルが結晶化したモノだから」

「氷みたいに……――」

「だから、時間が経つと溶けるのさ。雪解け水みたいに結晶に亀裂が出来て、その間を溶液が流れる」



 カプラが走ってくるのが見える。



「溶液……それ、って言えるか」

「まぁ、そうかもな?」

「そうか」



 俺はシルフィとの会話。

 敵に囲まれた者たちとは思えぬ呑気を終え、更には笑う。


 全てが見えたから。

 その身筋が――見えた。



 ――『自由自在に凍らせられるの! ……充分な量なら』

 ――『氷の盾とかも作れる! ほら特別でしょ?』



 戦闘を終わらせる道筋が――今見えた。

 彼女こそが勝利の女神。

そのもう一人が、俺の目の前まで来ていた。



「カプラ……――」

「はぁ……はぁ……何?」

「思い付いたよ、策を」



 今度こそ決める。

 覚悟も、何もかも――全て終わらせる。



「もう一度、飛んでやるんだ。その為に――君の“特別”を貸してくれ」



 カプラを見つめる。

 彼女は、“特別”だ。

だから、すぐに笑い返してくれる。



「任せて――私、勇者特別だからね」

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2024年10月14日 19:30 毎日 19:30

覇者のフォーミュラ‼︎〜最強ゲーマーの俺、異世界にて【強奪】と【付与】で無敵ハーレムを創り上げる。 松葉たけのこ @milli1984

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