第90話 少女よ、さようなら。


【Eスキル――Lv.2引力、発動】



 俺はスキルを発動させる。

 キメ技に全てを賭ける。

その“二つ”へと引き寄せを掛ける。

エニュールの顔に近付いて。


 そして、懸けたHPが減っていく。

 その灯が灰へと。



「でも、俺の勝ちだよ――ッ」



 揺らぐ視界が遂に消える。

 モニター画面のようにプツンと消えた。

ゲームオーバー。



【Cスキル:魂分ネウマ――発動】



 それから――コンティニュー。

 全てのスキルの冷却時間がリセット。

その全ては、彼女の仕業だ。


 引力で、俺の剣ごと引き寄せた。

 その偽物な女司祭。その金髪少女。

愛おしいパーティメンバー。



「まだ死ぬなよ、王子さま」



 シルフィ・グライア。

 彼女のスキルに回復されて、俺は目を覚ます。


 それに、勝利の女神が――もう一人。

 銀髪に角ありの羊娘。



「夕……――」



 カプラ・フォニウス。

 俺とエニュール。

その間近まで来ていた彼女。



 ――『Eスキル――』



 さっき手を伸ばした時。

 引力の発動よりも前、赤い瞳シルフィを前にして――

カプラへと手を伸ばした時。


 その時に、俺は“蜃気楼パンタズマ”を発動した。

 カプラのいた位置に、彼女の幻影を置いた。

そして、カプラ本人には、ここまで“潜伏”してもらった。

静かに潜伏して、エニュールまで近付いてもらった。


 その為には、魔女の集中力がカプラから逸れていなければならない。

 その為には、誰かが魔女の気を惹く必要がある。

その役目が出来るのは――俺だけだった。



「どう、自分がデコイになった気分は……?」

「……最悪だな」

「でしょ」



 言葉と裏腹に笑い合う。

 それから、シルフィとも笑顔を共有する。



「……――るか」



 狼狽えるエニュールの前で、寄せる。


 二人の手を掴んで引き寄せる。

 “いかにも”な構図だが、仕方ない。

カプラが笑いながらも、目を細める。


 何か言いたげだが、その時間は無い。



「……」



 いかにも浮気者ハーレムな構図だ。


 だが、こうしなければ、“安全地帯”から出てしまう。

 俺が発動しようとしているスキル。

冷却時間がリセットされた、必殺技。


 それは、術者から半径700キロ程度を焼き尽くす。

 湖を完全蒸発させるほどの火力で焼く。

けれど、俺とカプラはダメージを負わなかった。


 あの時、強奪したてのあの力を使った時――

 “ゴミスキル”と呼んだ、アレを使った時。



【Eスキル――】



 目の前、狼狽え続けるエニュール。

 分からないのだろう。

この次に、どうしたらいいのか。

どう動けばいいのか。


 彼女は、直接戦闘の経験が少ない。

 イレギュラーに対応できない。



「私は負けない……私こそが――真なる魔女……そう者」



 銀髪の少女は、三つ編みを振り乱す。

 茶色の瞳を見開く。



「その為に、愛されるべき姿アイデンティティを作った――こんなに……ッ」



 少女――エニュールが杖を掲げる。

 生贄が反応するも、間に合わない。

劫火を避ける為に、彼らは距離を取っていた。


 生存本能が、洗脳よりも強く残っていたのだ。

 彼らは、まだ生きていた。


 俺は一つ、瞬きをする。



「もう良いんだよ……――我らが魔女エニュール



 金色に変わる瞳。

 彼女の色と代わる瞳。



「さようなら――“ディノー”」



 発動する――Eスキル。

 ディノーから強奪したスキル。



白光イクリクス――発動】

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