第88話 【付与】――そして、思い出す。


「愛おしい君を見てる」



 俺は自ら息を重ねる。

 シルフィの想いを共有しようと。


 姫を呪いから解き放つ、接吻キス

 それは――そんな純粋な物ではない。



【Eスキル:付与、発動――】



 このスキル“付与”による繋がり。

 これを使って、シルフィを魔女から引き離す。

魔女として、似姿としての彼女を殺す。


 そして、生まれ変わってもらう。



【よろしく。我らにとっての“唯一無二”を】



 声が聞こえた気がして、俺は瞳を上げる。

 けれど、誰もいない。

ディノーの姿はどこにもない。



「……何だよ」



 俺は止まった世界で、目蓋を閉じる。

 付与できるスキルは一つだけ。

スキルレベル1の“付与”では、それだけ。


 それしか出来ない。

 俺だけでは――それだけだ。



【対象に付与するスキルを選んでください】



 世界が動き始める。

 俺を刺していた、金髪少女。

シルフィが瞬きをする。



「最高だな――お前は、よ」

「……え……?」



 もう一度、接吻。

 軽く唇を重ねてから、シルフィが距離を取る。

よろけながらも、後ろに下がる。


 その赤い瞳は、熱く燃えている。

 もう虚ろなんかじゃない。



【Eスキル――】



 俺は手を伸ばす。

 シルフィも手を伸ばす。

俺は銀髪少女へ。


 生贄に囲まれた、カプラへと。



「まったく……堂々と浮気して……ッ!」



 言葉と裏腹に、笑っている。

 そんな羊娘を見て、瞬きする魔女。

安全な距離を取って、生贄という盾に囲まれている。


 スキル“旋風”は冷却時間中。

 そんな状態にもかかわらず、魔女から消える。

その狂気の笑顔が。



「まさか……お前は……転生者――?」



 その額から伝う、一線。

 一筋の汗。



「……今……何をした……」



 襲おうとしていた生贄たちが止まる。

 一瞬の動揺。

その程度でも、戦場では命取りだ。



「何をするつもりだ……貴様……ッ!」



 俺は自分の内に集中する。

 間違いない。

HPが、かなり減っている。

さっきのシルフィの攻撃は痛かった。


 あと少しで、死んでしまう。

 


「――それでいい」



 今の俺の役割は、一つ。

 この戦闘は、最初の“やり合い”に似ている。

ドラゴン戦。ディノーとの殺し合いに。


 そんな考えに、支配されていた。

 その俺の手から、長剣が奪われる。

金髪少女の手によって。



【Eスキル――劫火、発動】



 長剣を奪った、金髪少女――シルフィ。

 彼女がスキルを放つ。

俺の付与したスキルを――放つ。

俺へと。


 炎が、俺を直撃する。



「……ッ」



 俺は炎を食らって、飛ぶ。

 移り変わる、景色。

迫る、魔女の顔が誰かと重なって。


 HPが削られていく感覚がして。

 命の灯が、段々灰と代わっていく。



 ――『ねえ、好きだよ』



 走馬灯。

 元クラスメイトの笑顔が浮かぶ。

どこまで行っても、彼女とは“仲間”の関係だった。


 浮かぶ、元ゲーマー仲間の顔。



 ――『これぞ、“充分なリアル”だろ』

 ――『私は仲間じゃない……“友人ちゃん”って感じかな?』

 ――『そう。“冷却時間”を無効化する条件は――』



 このままでは、また笑われてしまう。

 まだ、そんな風に想ってしまう。

まだ、友人ちゃんの事を。



「だから……――覇者になってやるのさ」



 前と同じように。白熱を。

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