第87話 最後に、勝利を目にする者。


「少しずつ……勝ち方が見えてきたから、な」



 俺はそう言い、頭を回す。

 まずは、情報の整理からだ。

気付いた事、見た事をまとめてみる。


 ――攻略法指南、その1。

 “勝機”は観察にあり。



「……観察条件、敵が持つ武器スキルについて」

「夕……また、ブツブツと……独りで」



 竜の魔女、エニュール・グライア。

 今も生贄が傍にいて、近寄れもしない。

そんな位置にいる、卑怯な敵。


 その魔女が見せたスキルは3つ。

 声圧、白光……――



「……数値変換メタトロフィス

「……」



 横で、独り言をする。

 そんな俺を見て、カプラは呼吸をする。

大きく一つ、何を思ってか、息を吐く。


 彼女と同じEスキル――数値変換メタトロフィス

 魔女の持つスキルの一つ。

それは障壁を発生させ、そこに生じたダメージ量の分だけ、他のステータスに数値を加算するという力


 ただし、この力でダメージ自体は無効化されない。

 ダメージ量は、障壁から“何らかの手法”により、術者に伝達される。


 スキル名の“変換”とは名ばかり。

 実際は、自身の痛みの分だけ、強くなれる力だ。

それが“数値変換メタトロフィス”というスキル。


 このスキルは他者にも障壁を付与する事が出来る。

 この特性によって、仲間を守る事が可能。

本来ならば、この力が真価を発揮するのは――

“パーティ行動”の時だ。



「ゆえに、このスキルを持つ相手が敵の場合……」

「――その敵の仲間は、排除しないといけない」


 

 俺の言葉を、カプラが繋ぐ。

 俺の思考を、カプラが続ける。

代わりに、解を出す。



「シルフィは私達の邪魔になる」



 “数値変換”と似たシルフィのスキル。

 Cスキル――“解式変換ハプティスマ”。

彼女のスキルによる障壁。

それが、魔女を無敵にしている。

魔女を守る、二重の障壁の一つを作り出している。


 シルフィは、魔女の防御力に貢献している。



「排除か……そうだな」



 俺は呟く。

 その呟きに、魔女――エニュールが笑う。

俺も、その顔を模倣する。


 笑って、そいつへと長剣を向ける。



「笑ってんじゃねえよ、魔女が――」



 首を傾げるエニュール。

 その首に対し、光る刃を視界で重ねる。



「お前から――奪っ強奪てやる」



 その仕草に応え、シルフィが走る。


 腕を振り、虚ろに“見える”笑顔のまま。

 その表情のままで、俺達に襲い来る。

後ろには、他の生贄たちを引き連れて。


 彼女は餌だ。

 シルフィが俺達の動揺を誘う。

その隙に、他の生贄たちが俺達の息の根を止める。


 俺は覚悟を決める。

 シルフィを排除する。

魔女としての彼女には消えてもらう。



「最初から、そのつもりだった」



 排除。

 戦場からのみ排除。

つまりは、戦闘不能にしてしまう。

“敵”では無くしてしまう。



「カプラ……後は頼む」



 戦略とも呼べない、勝負師の賭け。

 覇者としての、全てを懸ける勝負。


 それをやるには、捧げる事が必要だ。

 持っている知識、経験、人生――

その命すらも例外じゃない。


 俺の命すらも。



「――次は、“全てが決まる死地”で」



 熱い感覚が腹を貫く。

 シルフィの細腕が、俺をえぐっていた。


 その細腕の周りにだけ、黒い障壁が見える。


 彼女は障壁を腕に集中させた。

 その腕に強度を出した。

自らの腕を武器とした。



【Cスキル:解式変換ハプティスマ――】



 白くなる、自分の髪。

 それが赤い目に映る。


 俺を傷付けた。肉を抉った。殺そうと――


 その強烈な感情が、その瞳に呼び覚ます。

 刹那、その心に意識を。



 ――『どうか“私”を見て。あの愛おしい町娘みたいに、好いて』

 ――『意外と……情熱的なんだな、お前って』

 ――『初対面だけど……しびれた』



 ディノーを“強奪”した事。

 シルフィと“付与”の条件を一つクリアした事。


 意識的にせよ、無意識的にせよ。

 俺達は繋がりを作った。



 ――『わたくしの名前、知りたがってたでしょう』



 それで気付いた――分かった事がある。

 あの時、君が嬉しくて、名乗ってしまった事。

似姿レプリカとしてではなく、自分オリジナルとしての名を。



「シルフィ・グライア……――」



 力を感じる。

 俺がこの力を使うのは2回目。

発動条件は、きっと全て満たされた。

そのEスキル――



「俺は……」

「……き……きり……おう……じさ……ま」

「はは……そんな恰好良かないけど――でも、覚悟を決めたよ」



 俺を両腕で貫くシルフィ。

 その金髪少女を抱き締める。

時間の止まった、その空間で。


 俺は愛する覚悟を決めた。



「わたし……誰からも……見て……見てもらえなくて」

「そんな事ない――俺が」



 俺は勝利を見ている。

 金髪少女の目の中に、未来を見ている。

銀髪少女の目の中に、過去を見た時の様に。



「俺が見ている。目にしているよ」



 最期に、勝利を目にしている。



「もう見失ったりしない」



 これはきっと裏切りだ。

 それも2回目だ。



「いつだって――」



 けれど、ここまで来たら、もうヤケだ。

 彼女は――似ているから。



「愛おしい君を見てる」



 俺は自ら息を重ねる。

 シルフィの想いを共有しようと。


 姫を呪いから解き放つ――接吻キス



【Eスキル:Lv.……付与、発動――】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る