第84話 みんなは、舞台の操り人形。


 流れる水の音。


 魔女により、移動ワープした知らない空間。

 知らない暗闇、知らない床。

その妖しく輝く床の鉱石。



【Cスキル:魂縛ファイドン、発動】



 その石への激突。

 その惨劇を、俺はディノーのスキルで防いだ。

今は完全掌握した、魔女のスキル。


 それを魔女――エニュールの目の前で使った。



「よくできました」



 赤い目を細めて笑う、魔女。


 エニュールの拍手。

 その魔女の拍手に、重なる音。

周りを囲む、複数の拍手の音が連なる。


 それは反響ではない。

 魔女の拍手の音が反響したのではない。

どちらかと言えば――共鳴だ。



「頂上へ、"おかえりなさい"」



 裾を持って、軽く会釈。

 芝居がかった仕草。

舞台上の役者、あるいは人形のような所作。


 その彼女を囲む、大勢の人間たち。

 人形のように“鎖”に吊り上げられた、人間たち。

その人間からの黒い鎖が、魔女に繋がっている。



「“我ら”は待っていたわ。この時を……ね」



 場が一気に明るくなる。

 俺達と魔女、それに囲む人間たちを照らす。

辺り一面の鉱石が虹色に――照らし出す。


 カプラが周りの人々を見渡す。

 そして、目を見開く。



「夕……この人たち……」

「ああ……――生贄だ」



 生贄と言っていた。

 そんなシルフィの言葉を思い出す。

その時、彼女がどんな顔をしていたか。



 ――『あの魔女は帝国と王国、双方の街から生贄を攫さらっている』



 その後に、彼女は何と言っていたか。



 ――『……絶対に止めないと』



 苦虫を噛み潰したような顔。

 そんな顔をした俺を見て、魔女が笑う。

口を大きく開き、犬のような牙が覗く。



「アハハ! その顔! そんな顔!」

「……何がおかしい」



 エニュールは一つ瞬きをする。

 すると、瞳の色が金へと変わる。



「自分の正義を疑わない、そんな顔しがって……ねえ?」



 魔女は、蛇のように長い舌を出す。

 顔を傾け、あっかんべーと子供のようにやる。

それから、遠い目を向けてくる。



「……おかしいわ。何もかも」



 かと思えば、クルクルと回り出す。



「おかしい? おかしい! おかしいわ? おかしくない!? だって、面白い! ねえ!?」



 魔女の瞳の色がどんどん変わる。

 自問自答のような狂言がどんどん出る。



「コイツ……狂ってる……」



 カプラがそう呟く。

 呟きながらに、転がっている長剣を手に取る。

俺達と一緒に、ワープした長剣。

俺とカプラの、二本の刃。



「俺達の武器まで、ご丁寧にワープさせやがって」

「ご不満……?」



 魔女のあの行動は不可解だ。

 天井にぶつかりそうだった俺達。

それを、わざわざワープさせた。


 こんな場所まで連れてきた。

 さらに、武器まで持ってきた。


 そのまま放っておけば、天井にぶつかって死んでいたかもしれない。

 そんな俺らを助けようとした――

そうとも取れる行動。


 魔女は、そんな不可解な行動をした。



「お前、どうして欲しいんだよ」

「んんん……? だって、その方が面白いでしょう」



 魔女エニュールは、ローブのフードを取り去る。

 それから、少し横へと逸れる。

その後ろの生贄たちも、ぞろぞろと横に避ける。


 みんなが避けて、道が出来る。

 一人の美少女へと――続く道。



「この方が面白がってでしょう……ねえ?」



 生贄たちの中――一人の美少女が拍手している。

 鎖に繋がれた、女司祭。

連れ去られ、追い求めた一人。


 赤い目を見開き、泣きながらに笑っている。

 洗脳状態の金髪少女――



「あはっ……ははははははは……」



 シルフィ・グライア。



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