覇者のフォーミュラ‼︎〜最強ゲーマーの俺、異世界にて【強奪】と【付与】で無敵ハーレムを創り上げる。

第81話 私の名を呼んで。

　HPが削り切られ、落ちる黒犬。

　その黒い死体には目もくれず――

　俺は目で追う。

　右手にあった、長剣。その軌道。

サイクロプス目掛けて――飛んでいく刃。

　それが、ヤツの首に突き刺さる。

　その刃が斜めに抉（えぐ）る、その様（さま）。

『……ギャァ――ッ！』

　巨人（サイクロプス）の声が響く。

　ヤツのスキル“声圧（ウォクス）”による声が轟く。

　落ちている俺達に向けて――

　最期の悪あがき。

「あ……あぁああああ――ッ！」

　カプラが絶叫し、長耳を両手で抑える。

　以前よりも増した巨人の声量、その音圧。

それに耐えかねて、悲鳴を上げる。

　彼女の背後に、地面が見える。

　“声圧”に押され、俺達は速く落ちている。

落下が加速しすぎている。

　それで、もうすぐ衝突。

　カプラの数値変換は、今は使えない。

さっき使ったせいで、冷却時間がまだ残っている。

「大丈夫だ……ッ」

　俺は手を重ねる。

　悲鳴を上げる、カプラの手。

耳を覆う彼女の手。

その上に、俺は自分の手をそっと重ねた。

　両手で、カプラの耳を覆う。

「武器は、まだある……――まだ、この手に」

　そして、左手で彼女の手を取る。

　大丈夫。

　俺は一人じゃない。

前に覇者（プレイヤー）だった頃と同じように。

　今は、彼女（カプラ）がいる。

　守るべき仲間がいる。

万一の場合、“彼女”もいる。

　それを胸に、俺は、右手を掲げる。

【Eスキル：引力（ヴァリタス）、発動】

　巨人に、中途半端な刺さり方をした長剣。

　それを、スキル“引力”で引き寄せる。

　斜めに肉を抉った長剣。

　それが強力に引かれる。

肉を斬り、骨を断ち――その首を断つ。

　しかし、声は絶たれない。

　“声圧”は続く。

落ちた巨人の頭。

その口から、声が出続けている。

「しぶといな……――」

　巨人の頭が転がり落ちて、上を向く。

　その口が上を向く。

次の瞬間――砕け落ちる、天井。

　いくつもの階層、それの複数の天井。

　それを巨人の“声”がブチ抜いた。

　無数の破片が俺達を囲む。

　攻撃性のある破片。

敵性物体が15個以上。

　そこで、その手に取る。

　引き寄せ、落ちてきた長剣を。

「……お陰で、助かったよ」

　万が一は、彼女を使おうと思っていた。

　魔女の似姿であるディノー。

そのスキルを。

　だが、それも今は必要ない。

「【Cスキル：白星斬撃（ディノーア・ステラス）――発動】」

　俺は、カプラの手を左手で引いたままに。

　天井の破片を斬る。

スキルの作った物凄い速さで動く。

　その勢いのままに――飛ばす。

　自分を飛ばす。

カプラごと、今度は、本物の自分を。

「ぁああああああああ――ッ！？」

　天井の更に上へと。

　上の階層へと回りながらに――飛び上がる。

「これは……逆にヤバい――ッ！」

　コントロール不能。

　旋風に乗った時とは、まるで違う。

制御が効かない。

身体の向きさえ、思う通りにならない。

　あれだけ、天井が何層も破られたのだ。

　もしかすると、空いた穴の先は頂上かもしれない。

こんな“ショートカット”があったとは。

　けれども、到着と同時に死ぬ。

　これは確実に、天井にぶつかって死ぬ。

「ディ……ディノー……――ッ！」

　今は、彼女を使うしかない。

　彼女の名を呼んで、それから――

　周りの鉱石が輝く。

　視界が淡く溶け、消えていく。