第80話 それだけじゃない。



 紫色の閃光。

 巨人のレーザーが黒犬に当たる。

そのHPをどんどん削っていく。


 そこで、機械音声。



【Cスキル:声圧ウォクス――発動】



 その音声が告げる、敵のスキル。

 一つ目の巨人のスキル。


 その発動を知って、俺は頭を回す。

 何手か先まで、戦闘を予想する。


 広く、遠い天井が淡くきらめく。

 まるで、嘲笑うみたいに。



「……ダメだ」



 “声圧ウォクス”というスキル。

 そのスキルの呼び名の響き。

声によって圧する力。


 そんなスキルを、俺は見た事があった。

 既に、目の前で使われた事のあるスキルだ。

黒犬の使っていた“声”のスキル。

そのスキルを、サイクロプスも使えるのか?


 だとすると、このままでは――



「このままじゃ失敗する――られる」



 悪い予感に支配されかける。

 それを打ち消す、銀色。


 カプラが長剣を捨てて、落下を加速する。

 彼女の銀色が、俺を再び奮い立たせる。


 だから、俺はその手を掴んだ。



「……なんてな」



 カプラが掴んで、俺の手を引く。

 急接近し、その勢いで回る。

グルグルと――俺たちが回る。


 その勢いのままに――

 俺は、“自分”をぶん投げた。



【Eスキル……――発動】



 掻き消える機械音声。

 直後、投げられた俺が、飛んでいく。


 目標めがけて、一直線……――とはいかないが。

 少しの曲線を描いて、飛んでいく。

目標――サイクロプスに向けて。


 それと、もう一つも――飛ばす。



『アァガ……――ッ!』



 巨人の声が響く。

 機械音声も圧する、サイクロプスの声。

その声の圧に、空中の黒犬が押される。

押されて、レーザーの射程から出る。


 紫色の“閃光”と“声圧”。

 二つのスキルは、同じ場所に発動できない。


 そして、恐らく、“声圧”には弱点がある。

 自分のスキルを無効化できないのだ。

だから、その“声”によって生じた風圧を使った。


 スキル自体ではなく、その副効果の圧を使う。

 そうして、黒犬をレーザーから逃がすのだ。

ヤツのHPが0になる前に。


 だが――そんな事はさせない。



「おい」



 ただの一言、それが巨人の声を切り裂く。

 その巨人の一つ目が動く。

一瞬、“俺”の姿を追いかける。


 それが幻覚とも知らず。



「……掛かった」



 俺は呟く。

 カプラと一緒に、落ちながら。

彼女の身を、で抱きしめて。


 その瞳。その目線。

 それは時として、思考するより先に動く。

危機に対して“反射”的に動く。

反射神経。一種の防御反応。


 どうやら、この“仕様”は怪物でも同じらしい。



 ――『Eスキル:蜃気楼パンタズマ、発動』



 サイクロプスの目は、俺の姿を追った。

 スキルで作り出した、俺の“幻影”を追った。

ビームを放ちながらに、その目で追ってしまった。


 カーブを描き、黒い怪物の前へと出た。

 そんな俺の幻を、両の眼に見た。

その後ろには――黒犬。



「……――ッ!?」



 レーザーが黒犬を焼き尽くす。

 HPを削り尽くす。

そうだ。その為に、幻を放ったのだ。


 レーザーから逃そうとした黒犬。

 その怪物に、再びレーザーの照準を合わせる為――



「――それだけじゃない」



 俺が投げたのは、“幻影”。

 それだけではない。

それと、もう一つ。


 俺の幻の後ろに隠して、飛ばした。

 その一つ。


 俺の右手にあった、長剣。

 それがサイクロプス目掛けて――飛ぶ。

そして、ヤツの首に突き刺さった。



『……ギャァ――ッ!』



 それから少し後、砕け落ちる、天井。

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