第79話 なんてな。


 台詞の後に紫が放たれた。

 それを放ったのは――サイクロプス。

紫色のレーザーを一つ目から放った。


 位置取りは完璧。



「……来るかッ!」



 この台詞は、サイクロプスに向けて、ではない。

 その巨人の正面に飛んできた――黒犬。

それに向けてのキメ台詞。

いや、“手向け”みたいなモノか。



『ッ……』



 動揺。黒犬の赤い目が見開く。

 それが見えて、俺は顔を醜く歪める。

やっと、気が付いたか。


 お前は、もう終わりだ。

 空中で俺は笑う。

落下を始めながら、笑う。

旋風は、“目標地点”まで届かない。



「ほら……――」



 放たれた紫色のレーザー。

 サイクロプスのレーザー。

それが黒犬に向かう。


 真正面のカプラを狙ったレーザー。

 それによる同士討ちフレンドリーファイア

黒い犬のHPがどんどん削られていく。



「“無効化”してみろよ」



 黒犬はさっき、声を使った。

 カプラの回避を封じようと使った。

それだけではなく、恐らく、巨人のレーザーも打ち消そうとしたのだ。


 カプラを焼き殺した所。

 ちょうど良い、その所――

――そのタイミングでレーザーを声により打ち消す。


 カプラの威圧に使った、“声のスキル”。

 そのスキルを、レーザーの打ち消しまで持続させる。



 ――『“冷却時間クールタイム”は、どうなっているのか――?』



 そう考えた事もあったけど。

 問題は、冷却時間じゃない。


 あの黒犬が持つ、声のスキル。

 その長所は、持続時間だ。


 “魂縛ファイドン”の鎖を破ったのも、その持続時間による効果。

 ヤツは何度もスキルを掛けたのではない。

一つのスキルを長時間使って、鎖を切ったのだ。


 扉を破った、あの轟音の時も、だ。

 アレも連続で使用していたのではない。

一つのスキルによる、一つの声。

それを、小さくしたり、大きくしたり。


 小声や叫びに変えて、一つの声を使い続けたのだ。



 ――『ッ……』



 驚くべき肺活量。

 けれど、それも今は使えない。

さっきコイツは息を切った。

俺に欺かれた――その動揺で。


 銀色の姿が迫る。

 それを横目に、俺は小さく言う。

黒犬へ。



「それとも、“反射”してみるか?」



 黒犬の正面、その間近には味方。

 迂闊に反射すれば、その巨人に当たる。

さっきの“劫火フォティア”の反射の様にはいかない。


 それに、コイツの反射はさっき使われた。

 冷却時間のせいで、どの道、使えない――

そのはずだ……。


 そう考えていた俺。

 その耳に、聞こえる。

呼吸音が。



「まさか……」



 サイクロプス。

 ソイツが息を吸っていた。


 同じ種類の敵。

 それが同じスキルのみを持っているとは限らない。



【Cスキル:声圧ウォクス――発動】



 機械音声が告げる、敵のスキル。

 一つ目の巨人のスキル。


 俺は頭を回す。

 何手か先まで、戦闘を予想する。

ダメだ、このままでは――


 同士討ちが上手くいかない。



「ダメだ……このままじゃ失敗する――られる」



 そして迫る、銀色の髪。

 カプラの顔が迫る。

更には、スローモーション。


 長剣を捨てて、加速したカプラ。

 その手を、俺は確かに掴む。



「……なんてな」


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