第77話 瞳の媒介。


 カプラがスライムに足を取られる。転がる。



「あああああああ――ッ!?」



 下り坂を羊娘が転がっていく。

 声が反響しながら、遠ざかっていく。

その先は確か――


 俺は立ち止まる。

 周りを見渡して、再確認する。

地図には、敵の位置まで書いてあった。

それこそ、ザコ敵の位置まで、正確に。



「分かった――この先にいたのか」



 どこを走っていたのか。

 万華鏡の中を走り、分からなくなっていた。

だが、今分かった。


 スライムがいた事で分かった。

 地図には、その位置も載っていたのだ。

それを基準に、今いる位置を割り出した。


 あと、やる事は一つ。



「待ってろ、カプラ! ……今追うぞ」



 そこで咆哮。

 背後に現れる――黒犬。


 俺は振り返る。

 振り返って、その赤い目を見返す。



「しっかり、ついてこいよ」



 直後、跳ぶ。

 跳んで、スライムの死骸に着地。

わざと足を滑らせる。

その勢いで、坂道を降りていく。


 最初は、下り坂。

 それが少し続いてから、上り坂。

滑った勢いを殺さずに、坂を上がっていく。


 上がった先で――飛び出す。

 開けた空間フィールド

明らかな“ステージ”へと射出される。



「ボスとの戦闘空間バトルフィールド……――!」



 その空間の中心にいる。

 緑色の巨人――恐らく、サイクロプス。

戦った事のある怪物。

今度は、巨大な全身鎧に身を包み、二つの大剣を持っている。

完全武装の二刀流。


 そいつにカプラが飛び掛かっていた。

 先に射出された彼女が、身を翻す。

長剣を振り下ろす。



【Cスキルの発動を検知……詳細不明】



 サイクロプスを包む、白い障壁。

 コイツも障壁を持っているのか。

数値変換メタトロフィス”と似たスキルを――



 ――「やはり“数値変換メタトロフィス”――見ているね……お前?」



 違う。

 コイツ自身が持っているスキルじゃない。

この巨人は障壁を――“付与”されているだけだ。


 エーテル鉱石を媒介にして、見ている術者から。



「“魔女は、いつでも見ている”――か……」



 俺は地面に着地。

 その上を転がって、直地の衝撃を殺す。



【被ダメージ:1】



 この機械音声は、スキルを感知した。

 けれど、“詳細不明”としてスキル名を通知しなかった。

恐らく、その有効な範囲に、対象がいなかったのだ。


 “引力”を使っている時に思い知った仕様。

 スキルには、発動範囲がある。


 “機械音声”もきっとスキルだ。

 そして、このスキルには検知可能な範囲がある。


 他にも、限定条件としての仕様が――



【Eスキル:数値変換メタトロフィス、発動】



 俺の考えを、音声が邪魔する。


 カプラがスキルを発動したのだ。

 巨人の障壁と美少女の障壁がぶつかり合う。

白い稲妻が障壁から出て、周りを撃つ。


 周りの鉱石にヒビが入る。

 そのヒビから、何かの液体が噴出した――



「何だ……――?」



 俺は考えようとして、頭を振る。

 今は戦いに集中だ。


 ぶつかり合っている障壁。

 その後ろで、サイクロプスの目が光っている。

あと、やる事は一つ。


 タイミングを気にする事。

 その“音”に、耳を傾ける事。



「まあいい……今だッ! ――カプラ!」



 巨体が滑り転がる音。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る