第76話 "使える"のなら何だって。


「……全力マラソンの時間だ」

「へ!?」



 試したい事がある。

 俺の中にある、新たな力。

もしかすると、あるかもしれないスキル。


 それを試すには、まず逃げなければならない。



黒犬ブラックハウンドの視界から――逃れないと」



 黒犬の咆哮。

 それが地面を揺らし、城を揺らす。

この“声”がスキルなら、とんでもない。


 さっきの轟音に続いて、ヤツが使ったのなら。

 “冷却時間クールタイム”は、どうなっているのか――?

考える俺、揺れる視界。

その中に、またも白い幻覚が見えた。



「夕……ッ!」



 カプラの声。

 それに連れ戻され、俺は我に返る。



「あぁ……分かってる」



 長剣を左手に持ち替える。

 続いて、空いた右手を後ろに構える。

俺がそうするのを合図に、カプラが地面を蹴る。


 一瞬、途切れる黒犬の咆哮。

 その刹那、目蓋を閉じる。

まずは、この“スキル”から戦いを始める――



【Eスキル:Lv.2引力ヴァリタス、発動】



 風を切って飛んでくる――銅板。

 カプラが置いてきた――盾。

それが、黒犬の背中に命中。


 見事に刺さり、肉を抉る。



 「キャイン――ッ」



 子犬のような鳴き声を上げ、黒犬が後ろを向く。

 そんな刹那の隙。

その機を逃さず、俺達は走り出す。

カプラの手を、右手で引いて、全力で駆ける。


 見知らぬダンジョンの中を、ひたすらに。



「道は……――ッ?」

「ッ……は?」

「道は分かっているの?! ねえ!」



 俺は、図を思い出す。

 手帳を開いたときに見えた――あの地図。



「あぁ……手帳に書いてあったからな」

「覚えたの!? あの一瞬で――」

「当然。なんたって、“覇者”だから!」



 なぜか、カプラは微妙な顔をする。

 凄いとは思っていそうだ。

けれど、小生意気な態度が鼻に付いたらしい。



「ダンジョンにいる"敵"の位置まで、地図には書いてあった」

「……それが、どうかしたの?」



 背後から黒犬が走って来る。

 その姿が、半透明のエーテル鉱石の中に映る。

何重にも反射して――まるで万華鏡みたいだ。



「その中に、“使える”敵もいるって話だ」

「使えるって……何に?」

「もちろん――黒犬を倒す為に」



 話ながら、または、叫びながら。

 俺達は、鉱石の中に走り込んでいく。

このダンジョンは、壁も床も天井さえ鉱石で出来ている。

仄かに七色の光を放つ、鉱石のみで出来た城。


 そこを駆けていると――分からなくなる。

 どこが壁か、どこに道があるのか?



「クソ……どこ走ってるのか、分からなくなりそうだ」

「……迷ったの?」

「迷ってないし!」



 俺は走りながら、前を見る。

 スライムが3体、前に現れた。

前の下り坂を“通せんぼ”している。



「邪魔――ッ!」



 それを斬り捨てる。

 斬った後に、広がるスライムの残骸。

その粘液――



「あ――!」



 それにカプラが足を取られ――転がる。



「あああああああ――ッ!?」


 


 

 


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