第72話 真実へ。


「やはり“数値変換メタトロフィス”――見ているな……お前?」



 城に、その扉に使われた鉱石を睨み言う。

 俺の身体を借りた、ディノー。

どうなっているんだ。

俺は今、誰になっている?


 全くの別人に乗っ取られている。


 “強奪”には、こんな副作用が……――?

 だとすれば、使えば使うほどに危険なスキルだ。



「まあいい……それよりもお前だ。随分、私とらしいな」



 ふざけるな。

 俺の身体を返せ。



「心配するな。身体は返す。というか、私はお前の中に消える予定なんだ……しばらく待てば溶け込み消えるんだぞ?」



 しばらくなんて待てるか。

 元々は俺の身体なのだ。

すぐに返せ。所要権は俺にある。



「そりゃそうだ……ねえ?」



 ディノーはそう言うと、ニカッと笑う。

 キモい笑顔を、彼女に向けて放つ。

放たれて、カプラがぎょっとする。



「何……誰……? あんた――ゆうじゃない……?」



 口をパクパクとさせ、金色の目が白黒している。

 そんな彼女カプラを放って、美声は言う。



「どうせ、私の言葉が必要だったろう?」



 俺は思い返す。

 身体は今、使えない。

それでも、手帳の一文を覚えている。

俺の頭脳がハッキリ動く。



 ――『城は魔女とその“同種”の言葉のみに従う』



 ここで言う“同種”。

 それは、彼女の“似姿レプリカ”たちの事。

多分、ディノーもその一人だ。

あの時の会話からしても、それは明らかだ。


 焚き火を前にした、夢の中での会話。



 ――『一応は"女庭師"……あるいは、ディノーという名がある。ずっと前に"元"へと譲った名だがな』



 “元”とは、オリジナルの事。

 彼女のオリジナルである、魔女を指していた。

垣根の上を飛ぶ女、生死を飛び越える怪物。

昔、そんな寓話ファンタジーがあると“友人”から聞いた。


 “女庭師”とは、魔女の事だと。

 


「魂の絆、その鎖をりて命ず――っと邪魔だな」



 黒犬が突進してくる。

 その巨体が寸前に迫る。



【Cスキル:魂縛ファイドン



 地面から黒い鎖が現れ、犬を縛って動きを封じる。

 これは、強奪したスキルの一つだ。

指定した地面に魔法で罠を張り、掛かった敵の動きを封じる。

今まで存在すら感じれなかった、スキル。

それは多分、使えなかったからだ。


 そのスキルを、今まで使えなかったのは、多分――



「――私にしか使えないスキルだから」



 ディノーは、くるりと扉を振り返る。

 それに命ずる。



「さぁ、開きなさい――我らが罪と裁きの扉よ」



 それから、くるりと回って消えた。

 俺の中に消えていく。

身体を俺へと返した。

混乱した状況を残して。



「今の姿って……――魔女なの?」



 問いかけるカプラ。

 その銀髪が風に揺れる。

扉が開き、ダンジョン内から風が吹きすさぶ。


 俺は振り返り、その風を浴びる。

 それから、息を一つ吐いた。

どうやら、色々と話しておくべきらしい。

今の俺に分かった事を。


 今までの経験。

 そして、これからへの――未来への推論。

それで誤魔化される事もある。



 ――『魔女は、いつでも見ている』

 ――『つまり私は――魔女の似姿レプリカを捕らえたのだ』

 ――『わたくしの正体は――』

 ――『私は、あの娘の“似姿レプリカ”なんだから』



 これらが指し示す、真実への手がかり。

 それが多分、“俺達”の未来を決めるのだ。



「少し、声を落とそうか――?」

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