第70話 翔べ、少年。


 目に入る、手帳の一文。

 そして、その次のページには絵。


 俺は笑みを零す。



【スキルLvレベルが上がりました――】



 水を差す、機械音声。

 続けて、それは通知する。



【Eスキル:引力、Lv.2に到達】



 スキルレベル。

 プレイヤー自身全体のステータス値の基となる、プレイヤーレベル。

それとは別の、スキル固有のレベル。


 対象スキルが使用される度に、経験値が入る。

 その経験値がスキルレベルを上げる。

RPGゲーマーにとっては、馴染み深い“仕様”だ。



「ゲームかよ……って」



 俺は思わず笑ってしまう。

 笑ってから、目の前を見る。

その目の前には――カプラ。



「でも……違うか」



 カプラと目が合い、頷く。

 その向こうにはケルベロス。

両者の背後では、まだ光る城の鉱石。扉。


 番犬の急所は、どこか。

 心臓、肺――三つの頭、三つの首。

その内、一番左の頭のみが俺を睨む。


 どの道、その首に俺の刃は届かない。

 あの巨体を、俺の背では越えられない。

俺の力だけでは、無理だ。



「これは紛れもなく、戦うべき現実リアルだよな」



 カプラが俺に頷き返す。

 言葉の意味は、分かってないだろうけど。


 さて、どうする。

 “劫火”も“旋風”も使えない。 

俺に使えるのは、手帳と他の“スキル”。

それに――彼女。


 俺は、手帳に目を落とす。

 もう一度、その一文を読む。

絵には一度、目をつむろう。



『城は、魔女とその“同種”の言葉のみに従う』



 それから本当に、目蓋を閉じる。

 彼女の手を借りたくはない。

けれど、そうも言っていられないから。



 ――『手を貸してやろうか?』



 手を伸ばして、発動させる。

 まずは、これから――



【Eスキル:引力ヴァリタス――発動】



 やっぱりか。

 スキルレベルが上がったお陰だ。

そのお陰で、冷却時間がリセットされた。


 つまり、“引力”をまた使う事ができる。

 今、この瞬間に、手が届くのだ。


 前までより、ずっと遠くのモノへと。



「来い――盾ッ」




 700……あるいは1000メートルくらいに遠く。

 そこから、大きな鈍色の銅板を引き寄せる。


 俺たちが魔女と戦いつつも、落下してきた時――

 その落下地点に置いてきた――その盾を。

それを、目前に引き寄せる。


 あと少しで届く――その瞬間。

 轟く――吠え声。



「……ッ!」



 ケルベロスの声。

 その凄まじい音圧が、俺の集中力を散らす。

今度は敵による阻害。



【発動阻害】



 盾の引き寄せが止まった。

 けれど、問題ない。

まだ、力は残っている。

盾を飛ばす、そのスキルの推力が――残っている。


 俺は、その盾を手にするつもりが無かった。

 それは、俺の為だけに引き寄せたモノではない。



「カプラ――ッ!」



 彼女の名を呼び、飛んできた盾を蹴る。

 "引力"が盾に掛けた力と、俺の力が合わさり――盾を飛ばす。


 カプラの方へと、その手元へと。



「夕――ッ!」



 盾を取り、カプラは被る様に構える。

 そこに俺は駆けていく。

そして――奇声。



「どぉおおおおおりゃあああああああああ!!!」



 カプラの盾を踏んで、俺は跳び上がった。





 

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