第4章▼ダンジョン――最後に勝利を“目”にする者。

第66話 それだけで十分だ。


 時間が経過した。

 どれくらいかは分からない。

何せ、時計が無い。

けれど、美少女カプラが立ち上がるのに十分な時間だった。


 立ち上がったカプラ。

 彼女と一緒に、俺は瓦礫の山の前に跪く。

その中に埋まって、潰れた死体はどうにも出来ない。


 出来れば埋葬したかった。

 けれど、そもそも死体を出せやしない。

下手に力づくでやれば、あの破片の山を崩して大惨事。


 だから――祈る事しか出来なかった。



「冥界の神イサラよ――どうか、この者に導きを」



 カプラの声。

 それを合図に跪く。


 頭を低くし、視線を伏せて、目を閉じる。

 そのまま、静かに心臓の上へと右手を置く。

この世界風の死者への弔いだ。


 それを終えて、カプラが再び立ち上がる。



「それで……その……あ」



 立ち上がって、慌てて涙を拭う。

 この期に及んで、強がらなくてもいいのに。



「これから……どう取り戻すの」



 俺は振り返って、後ろを見上げる。

 背後、その先――その下の方に“水晶の城”が見える。

怪しく微かに光る、魔女の城が遥か遠くに。


 俺達は、かなり広い空間に落ちてきたらしい。

 上のと同じような岩の洞窟だが、遥かに広い

広くて、真ん中の城に向かって、螺旋状に傾斜している。



「もちろん、あの城を攻略して……だよ」



 俺はポケットから手帳を取り出す。

 壊滅したパーティの所から持ってきた、あの手帳。



「魔女を倒そう――みんなで」



 シルフィの顔を思い浮かべて。

 それから、手帳を開き、頷く。



「うん。読めない。暗い」

「なんで、開いたのよ……」



 詳しくは読めないが。

 それでも、開いたページに模様が見えた。

迷路の様な模様。

恐らく、地図だ。

あのパーティは、このダンジョンを知っていたのかもしれない。


 手帳の持ち主はきっと壊滅したパーティの誰か。

 魔女の近くまで来た事のある、誰か。



「松明とかって……無い?」

「持ってきてないわよ……あのパーティの荷物にも入ってなかったし」

「つまり、この先には必要ない――って事か……」



 あのパーティは、魔女の根城の入り口に焚き火を置いた。

 そこにわざわざ拠点を置いた。

多分、偶然じゃない。


 あのパーティは、そこに魔女がいると知っていた。

何か“情報源”を持っていた。

そんなパーティの荷物に松明が無いのなら、恐らく必要ないのだ。



「待ってろよ。シルフィ」



 俺はシルフィの顔を思い返して、そう言う。

 彼女の表情、その発言。



 ――『嘘吐きだから』



 それに、あの足枷の跡。

 シルフィは何かを隠している。

けれど、彼女は魔女の前に立った。

カプラを庇った。


 仲間を守ろうとした。

 それだけで十分だ。



「必ず、取り戻してやる、仲間を――あの娘を」

 

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