第65話 前へ。次なる殺し合いへ向け。


 魔女が霧へと変わっていく。

 シルフィと共に消えていく。



「待て――ッ!」



 カプラが飛び掛かる。

 けれど、そこに魔女はもういない。

やり場のない怒り。

それに耐え切れず、カプラは肩を震わせた。



「クソ、クソ、クソ、クソ――ッ!」



 そう叫んで、地面に転がった破片を蹴りつける。

 蹴り続ける。


 蹴った破片が細かくなって、横の死体に掛かる。

 魔女だった誰かの死体、それともう一つ。

ルカの死体――潰れてしまって顔の見えない一つ。

恐らく、ルカの死体のそれ。


 それとカプラの間に、俺が入る。



「大丈夫、大丈夫だ」



 カプラを抱き締める。

 お互いの背の都合上、彼女の腰に抱き着く形だ。

それでも、やっとだ。

やっと、俺の手が届いた。



「何が……大丈夫なの」



 カプラは震え続けている。

 一つ、二つと涙の雫が落ちる。



「私のせいで、お兄ちゃんが死んだ……それに、シルフィだって」

「お前のせいじゃない」

「私のせいだよ」

「違う――!」



 思えば、俺は冷静になり切れていなかった。

 魔女を殺そうと、全力になって、躍起になって。

その目は、戦場ばかりを見ていた。

敵ばかりを追っていた。



「俺のせいだ」

「ッ……それこそ違うわよ!」

「違わないんだ! 俺は仲間を見ていなかった。敵ばかり見ていた。だから……――」



 俺はミスを犯した。


 “常夜の国”。

 そのゲームでの経験と、この異世界での体験。

いつの間にか一緒くたにしていた。

その二つは、全然違うものなのに。


 戦略や勝ち方ばかりが全てじゃない。

 目の前にいるのは、ゲームのキャラなんかじゃないのだ。

確かに生きている“人”なのだから。

その感情を無視するべきではないのだ。


 それを分かった先に、“真の連帯”がある。



「それでも……」

「ああ。分かっている。でも、大丈夫なんだ――」



 俺はシルフィを放して、暗がりを見る。

 その先に、仄かな明かりが見えた。



「大丈夫にしてみせようぜ」



 その先には――水晶。

 巨大な水晶が微かに光っていた。

水晶で出来た、魔女の城が聳え立っていた。


 地下深く聳える、魔女のダンジョン。

 その頂上には、きっと勝利があるはずだ。



「全て取り戻そう。俺たちの手で」



 俺は手を差し出す。

 カプラがそれを取る。



「いつからリーダーになったのよ……」

「今から……ダメかな?」



 カプラは微笑む。

 何とか泣きながら、笑う。


 死体を振り返って、それから前を見る。



「弔い合戦……ね。それで、シルフィも取り戻す」



 そして、しゃがみ込んだ。

 そのまま、泣き崩れる。

決意しても、それでも苦しいのだろう。

無理もない。



「ごめん……戦うから……今だけ……は」



 俺は静かに頷き、抱き締める。

 しゃがんだ彼女を守るように。

その瞳を濡れたままに、燃やす彼女を。





 

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