第64話 魔女の変質。


 俺は、地面に手を向ける。

 やけに足音の反響した、石の床へと――放つ。

冷却時間のちょうど完了したスキル。

それを、床の小さなひび割れへと――放つ。



【Eスキル:旋風――発動】



 風が内側から、地面を裂く。

 さっき魔女が杖で打ち、この地面は波打っていた。

その時の衝撃もあって、脆くなっていたのだ。


 いや元々、脆かった。

 この地面には、元々“空洞”があった。

だから走った時、やけに靴音が響いた。


 俺のスキルが生み出す旋風。

 それが石の隙間に侵入して、地面を壊す。

ブチ壊す。



「落ちろ――」



 風が地面を葬って。

 当然、俺達は宙に放り出される。

放り出されて、落ちていく。


 そして、抜け出す。

 魔女の“白光”の発動範囲から、抜け出す。


 シルフィを受け止めた“旋風”。

 その設置セットで学んだ教訓――その“仕様”の一つ。

スキルが発動する位置は変わらない。

例え、スキルを発動させた者が移動したとしても――同じ位置で発動する。



 ――『発動阻害』



 それにもう一つ。

 引力を初めて使った時の“仕様”。

スキルの発動には、集中力が必要だ。

集中力を持続させる事が必要。


 そうしないと、発動中のスキルでも途切れる。



「へえ……私の平常心を乱そうって? それだけの為にこんな……ねえ?」



 落ちながらに、魔女は笑い続ける。

 いつまでも、そうやって楽しそうに。


 反吐が出る仕草。

 なのに思わず、俺も笑ってしまう。

“白光”の熱にやられた喉を震わせる。



「ハッ……それだけの……為だって……? いいや、これは――」




 落ちながらに見える。

 暗いけど、自分の周りだけは、はっきりと。


 俺達の周りには、たくさんの破片。

 地面の破片。

その間で、長剣が宙を舞っている。


 宙を舞い落ちる――ルカの長剣。

 俺はそれに向かって、破片を蹴った。


 その破片が、長剣の軌道を変える。

 魔女に向かって――嘘を吐く。



「これは――お前を穿つ為だ」

 


 台詞の直後、落下しきる。

 俺達は、下の地面に打ち付けられる。


 魔女は笑顔のまま。

 長剣は、破片に当たり、飛んでいって――

魔女の背後に舞っていた。



「ふふ……ふふふ……――ッ」



 魔女は――着陸と共に、その長剣に貫かれた。

 落下の衝撃が、背後の長剣を押して――

その刃が魔女を貫いた。


 そこで、俺は勝利を確信した。

 魔女は、集中力を欠いていた。

だから、障壁を纏っていなかった。


 スキルを発動できなかった。

 ――そのはずだ。



「……てて」



 俺は頭をさすりながら、起き上がる。

 すると、自分の身体から、白い膜が流れ落ちるのが見えた。



「カプラの障壁……――そうか、あの時」



 あの時――カプラの盾を踏み台にした時。

 あの時、白い稲妻が見えた。

あれは、カプラの“数値変換メタトロフィス”が発動した証だ。


 カプラは自身だけでなく、触れた相手に対しても障壁を付与できる。

 だから、俺はあの“白光”に耐えられた。

バッドステータスも無く、何の喪失も無いまま――



「カプラ、無事か!? シルフィ――」



 その時、突然に影。

 黒い影が上から重なった。

それを見上げると、魔女がいる。

シルフィを掴んで浮いている。


 馬鹿な……そんなはずはない。

 魔女は、さっき死んだはずだ。



「驚いたわ――私の"似姿"を殺せるなんて」



 魔女の死体。

 振り返ると、それが別人の死体に変わっている。

いや、最初から別人だったのか。


 別人に“変質”していたのか。

 黒い何かが剥がれて、骸骨が見えた。



「この……シルフィって今は名乗っているのだったかしら。全く……名前をあげたつもりは無いのだけれど」



 魔女はシルフィの頬を爪で撫でる。

 撫でた所から、赤い血が噴き出す。

生気のないシルフィの赤い目に、噴きかかる。



「やめなさい――ッ!」



 俺が叫ぶ――その前に、カプラの叫び声が響く。

 その声に、満足そうな顔で魔女は頷いた。



「こいつを返して欲しければ、殺しに来なさいな」



 魔女は黒い霧となって消える。

 シルフィと共に忽然と消える。



「本物の私を、あの"城"の頂上で……それまでに、心変わりしていなければ」








 



 

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