第63話 骸が手にした命。その使い道。


 魔女の必殺スキルが発動しかけている。

 その“白光イクリクス”。


 カプラを蹴り飛ばすシルフィ。

 その後、足を下ろすと刃が彼女の足が当たる。

地面に転がった、その長剣の刃。



「今だ――拾えッ!」



 シルフィがピクリと反応する。

 蹴られ、カプラが“引力ヴァリタス”の有効射程に入る。

即時、俺はスキルを発動する。

発動しながらも――走り続ける。



【Eスキル:引力ヴァリタス、発動】



 機械音声を合図に、全意識を集中。

 右手を伸ばして、“アイテム”を引き寄せる。

カプラごと“盾”を引き寄せる。


 “引力ヴァリタス”は、任意のアイテムを引き寄せる。

 誰が手にしていようと、お構いなしに――引き寄せる。

これは便利な特性だ。


 アイテムを持った仲間ごと、引き寄せられる特性。

 この特性は、戦闘からの“緊急離脱”に使える。

緊急時に、戦闘地点バトルフィールドから仲間を引き離すのだ。

持たせたアイテムごと、引き寄せて。



「シルフィ! 長剣を拾え――ッ!」



 “引力ヴァリタス”はアイテムを引き寄せる。

 同時に、二つの武器だって――引き寄せられる。


 利き手に持てる武器は一つ。

 二つも引き寄せたところで意味がない。

その特性は、本来ならば使いどころがない。

そんな“仕様”だ。


 でも構わない。

 上手く使えばいいだけだ。

上手く使って、窮地を脱すればいい。

だから――



「――拾え! 拾ってくれ……ッ!」



 走り、息も絶え絶えに、俺は叫ぶ。

 その声に、シルフィは黙って首を振る。

ゆっくりと、横に振る。



「わたくしに助ける価値なんて無い」



 シルフィの白い服の裾が捲れ上がる。

 魔女のスキル発動による風。

それが真実を暴く。


 彼女の両足首には、痣があった。

 足枷あしかせを掛けられた跡が。



「嘘吐きだから」



 俺は、構わず走る。

 飛んでくるカプラと目線が合う。

盾を抱えた、銀色の美少女と視線が絡む。


 “引力ヴァリタス”は、もう発動済み。

 シルフィが今、長剣を拾っても間に合わない。

こちらに引き寄せる事は――もう出来ない。


 俺は、地面を蹴り上げる。

 それだけで、その地面にはヒビが入る。



「カプラ――頼むッ」



 瞬間、カプラの表情が引き締まる。

 俺は地面を蹴り、跳び上がる。

カプラに向かって、跳ぶ。


 殺意、渇望、不安。

 感情の混ざった、その金色の瞳に迫る。



「……ッ」



 カプラに迫る――すると、彼女は持った盾を構える。

 斜めの位置に、を作る。


 その盾の踏み台を蹴って、俺は飛ぶ。

 蹴る力で、逆に、カプラを更なる安全圏へと飛ばす。

完璧な連帯技。打ち合わせ無し。


 彼女と触れた時、白い稲妻が見えた。



「――残念」



 魔女の声で、完全な白に焼ける視界。

 魔女の笑顔、カプラの歪む顔、シルフィの泣き顔。そして、爆音。



【――】



 スキルが発動する。

 魔女の“白光イクリクス”が俺を焼く。

果ては、俺――敵を殺す。

白い閃光、それが焼き殺すのだ。


 身体を炎が包み、HPが削られていく。

 脳内で音声が何かを告げる。



【……最期まで……足掻けよ……我らの敵】



 その声に俺は笑う。

 これは何の冗談だろう。

俺は、まだ死ぬ訳にはいかない。

骸の癖に。それなのに。



「まだだ……ま……だ……尽きていない――ッ!」



 俺は、地面に手を向ける。

 やけに足音の反響した、石の床へと――

そのヒビへと――



【Eスキル――】

 

 





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