第61話 黄金比。



 その選択は、俺次第だった。

 だから、俺らしく選ぶ。

覇者らしい道を選ぶ。


 ぼとり――と地面に落ちる死体。

 ルカの姿をした死体。

それに目を奪われるカプラ。


 そこで、俺は声を張る。

 場違いでもいい。

無責任だって、ヒーローをやってやる。



「俺は――誰も見捨てない! 置いていかない」



 カプラがピクリと反応する。

 その金色の瞳が、こちらを向く。



「君がそうした様に」



 カプラは目を見開く。

 過去の自分の台詞。

それを復唱されて、反応した。



 ――『誰も置いていかない……あなたがそうした様に』



 俺は、彼女に向かって言う。

 命を懸けて宣言する。



「勇者がそうした様に――必ず、俺が敵を穿つ」



 ルカの死体から、カプラの視線が俺へと移った。

 その瞬間、完全に視線を奪った。



「私……私は……――」



 これで大丈夫――とは、とても言えない。

 けれど――俺は自分の視線をゆっくりと移す。


 シルフィと魔女の位置関係を確認する。

 俺から見ると、魔女がシルフィの前に来ている。

走ったお陰で、俺からの位置が変わったのだ。


 それから、ロングソードをまた投げる。

 今度は魔女へと思いっ切りに――投擲とうてき



「食らえよ……クソ野郎――ッ!」



 “戦闘補助ヤハタ”は発動していない。

 この投擲は、恐らく当たらない。



【Eスキル:数値変換メタトロフィス、発動】



 魔女が防御の為に、障壁を張る。

 長剣は障壁に弾かれて、シルフィの横に刺さる。

そうだ。それこそが狙いだ。


 俺から見て、魔女がシルフィの前にいる。

 魔女の影に入る様に、シルフィが見える。

その位置関係なら――隙を突ける。



【Eスキル:劫火フォティア、発動】



 機械音声を合図に、俺はスキルを発動させる。

 ドラゴンの炎を起動させる。

魔女に向かって炎を噴き付ける。


 魔女が纏った障壁が、一瞬、揺らぐ。



「やっぱり……か」



 障壁には限界値がある。

ダメージ量を他の数値に変える。

その能力には、限界があるのだ。


 だから、シルフィのナイフを大袈裟に避けた。

 障壁を使えば、楽に防げる攻撃を――避けた。

カプラとぶつけ合わせた時、障壁が消耗したからだ。



「ふふっ……ムダな事を――ねえ」

 


 魔女は杖を前に掲げる。

 そうして、身体に纏った障壁を前方正面に集中させる。



「そんな事が出来る……のか……」

「驚いたの? ねえ?」

「ああ……」



 炎の中、視線を感じる。

 カプラの視線。

それにもう一人。



「お前の馬鹿さ加減にな」



 直後、光る刃。

 それが魔女へと振り上げられる。

背後から、シルフィが魔女を斬った。


 俺が投げた長剣を拾ったのか。

 狙い通りに。



「……ッ」



 魔女がよろめく。

 腕をだらりと垂らす。

あとは、俺がトドメを刺せば――


 いや、カプラが動いてくれるのが一番だ。

 位置関係からすれば、カプラの方が魔女に近い。

俺よりも近い位置にいる。

しかし――今の彼女にそんな事が出来るのか。



「……ふふふ。なーんてね」



 笑って、くるりと回る魔女。

 瞬きして、今度は瞳が紫色に変わる。

その紫が何かの光で白む。


 魔女の身体が微かに光っている。

 それは障壁だ。

二重に掛かっているのか。



「せっかく私と同じにしてあげようと思ったのに。ねえ」



 魔女はカプラを見て、そう言って笑う。

 その瞳に現れる、螺旋の模様。

螺旋がルカの死体をゆっくりと見る。



「私と全くの同じに。“精神の黄金比”に、いざないたかった」



 俺に移る、魔女の視線。

 敵意の載った視線。



「けれど絆を持っているのね。“我ら”と違って……厄介だわ」



 今度はシルフィを見て、魔女はこう言う。



「けれど……そう。焦らなくても良いわよね。今はその"過程"だもの、ねえ?」



 それから――魔女が吠え声を上げた。

 穴が震えて、岩壁にびっしりと瞳が現れる。

色とりどりの目、目、目。



「こっちの娘は、どうかしら」



 壁の目に気を取られた。

 その一瞬、シルフィの背後に魔女は立ち――

――その肩を長い爪で掴む。



「こいつは貰っていくよ」

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