第59話 やっと――



 凄まじい突風。

 取り去られる、魔女のフード。

カプラの肩から滴り落ちる――血。


 魔女の瞳、その金色が見開く。

 少女の姿が降って来るのを、その視界に捉える。

それは、金髪赤眼きんぱつせきがんの美少女。



「シルフィ……――ッ!」



 突風の中、カプラと魔女の間を裂くように。

 シルフィは落ちてきた。

落ちながらに、ナイフを投げる。



「ふ……ッ」



 魔女は後ろに飛ぶ。

 ナイフを避け、カプラとの距離を取る。

狂気的な笑みを浮かべたまま、杖を振るう


 再び、魔女の力で飛ばされる、サイクロプス。

 その狙いはシルフィだ。

カプラがそれに反応しようと動く。


 だが――



「お兄ちゃん……――?」



 カプラの目の前に、一人の影が現れた。

 その影は少しずつ形を変え、人の様になる。

鎖に繋がれた、角の生えた冒険者の形へと。


 けれど、それは薄れた影の色をしたままだ。

 幻影か。



「クソッ……」



 動揺して、カプラが動けなくなる。

 一瞬の隙。

ここで判断を間違えれば、きっと全滅する。


 俺は頭をフル回転させる。

 今、しなけなければならない事を考える。


 一つは、シルフィをサイクロプスから守る事。

 一つは、シルフィを落下の衝撃から守る事。



「死んだって良いんだッ! わたくしなんて――ッ!」



 彼女は、落下に対する対処法を持っていない。

 カプラは力技で何とかした。

“数値変換”をぶつけ合う事で、落下の衝撃をゼロにした。


 あのスキルで生み出される障壁。

 アレは、“使用者”と物理的に繋がっている。

それが何かにぶつかり止まれば、使用者も止まる。


 シルフィには、そんな事は出来ない。

 そんなスキルが無い。


 俺が動くしかない。

 力を振り絞り、俺は立ち上がる。



【Eスキル:旋風、発動】



 まずは、スキルで旋風を設置セットする。

 それで、シルフィを受け止める。



「次――ッ!」



 俺は目蓋を閉じる。

 身体の内に、スキルの発動を感じる。

発動しているのを感じる。



【Eスキル:戦闘補助ヤハタ、発動中】



 どこまで応用が利くか。

 このスキル、試させてもらおう。



「当たれ、馬鹿――ッ!」



 俺はロングソードを投げた。

 真っすぐ、槍の様に。

サイクロプスに向かって――投げた。


 けれど、外れた。

 その寸前、その首の手前をかすめた。

それでいい――



【Eスキル:引力ヴァリタス、発動】



 長剣がブーメランの様に戻る。

 飛んで戻り、サイクロプスの首を斬り落とした。


 俺の力だけでは、巨人の首を完全に斬ってしまうなんて不可能だろう。

 いくら強くなったとは言え、無理だろう。


 そして“戦闘補助”は、力の増強をしてくれない。


 だから、スキルの起こす力に頼る。

 “引力”というスキルが武器を飛ばす――その力。

それならば、もしかすると利用出来る。

そう思ってやれば――案の定。



「いい子だ」



 長剣は、俺の手前の宙で減速。

 俺の右手に収まった。



「ぱちぱち――っと。本当にそれって使いやすいわよね。そのスキルは、ねえ?」



 魔女が拍手する。

 その音で、カプラがハッと我に返る。



「そのスキルは見た事があるのよ。さっきからお前が使っているのも――ディノーのだ」



 瞬きして、魔女の瞳の色がまた変わる。

 右目が金のまま、左目が赤へと。

変わって、銀髪の美少女に向けられる左目。



「お前……こんな幻影を見せて……ッ!」



 魔女へと、カプラが斬りかかる。

 その前に立ちはだかる――幻影。



「く……ッ」



 腕を広げる、黒い角を側頭部から生やした青年。


 銀色の短髪、青い瞳、黒いマント。

 両手で長剣を構えている青年。

その姿は、どんどんと色づいていく。



「幻影……ふーん、そう思うんだ――本当に?」



 カプラの兄。

 ルカ・フォニウス。

失踪した冒険者。


 彼は、魔女の元にいる。

 そういう話だった。

まさか――ここで出してきたのか。



「う……あ……かぷ……」



 魔女が杖を振るう。


 失踪した冒険者ルカの姿をしたソレ。

 そいつが、カプラに斬りかかる。

その剣をカプラが“盾”で受け止めようとする。


 反射的な動き。

 彼女に、何かを想う暇など無かった。

そして――彼女の足が血で滑る。



「やっと……あ……え――」

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