第58話 魔女のスキル。


「それは――私が“殺した”はずのものだろうが」

「やっと本気になったか」



 瞬きをして、変わる魔女の瞳。

 振られる杖。

直後、叫び声。



「ああああああああああああ――ッ!」



 それは耳を貫く美声。

 美少女の叫び声。

その声と共に、銀髪の羊みたいな娘が降る。


 遥か上から落ちて来る。

 銀色の長い髪を、炎みたいに広げて。

カプラが――降って来る。


 その両手で、頭の上に何かを構えて。



「……仲間が来たか。“見た”通りね。けれど――ねえ?」



 魔女が笑う。

 金色となった瞳を細め、歯を剥く、彼女。

その背後から“緑色”が飛ぶ。


 サイクロプスが飛ぶ。



「何……――ッ!」



 一瞬、俺は動揺。

 しかして、すぐに理解する。

魔女だ。魔女がサイクロプスを飛ばした。


 杖を振っただけで、緑色の巨人を動かした。

 スキルの通知も無いままに。


 そう言えば、さっきから、機械音声の反応がない。

 魔女の“スキル”には反応していない。

一度たりとも。


 瞬間、そんな風に考える俺。

 その頭の上を、大槌がかすめる。



【Eスキル:戦闘補助ヤハタ、発動】



 サイクロプスの攻撃。

 大槌を振り下ろす、大振りの打撃。

それ自体は大した脅威じゃない。


 問題なのは、その衝撃波だ。



「……ッ!」



 俺は飛ばされた。

 サイクロプスが起こした衝撃波のせいだ。

この敵は大きな攻撃の度に、衝撃波を起こす。


 この“穴”の壁際まで飛ばされる。

 その末、俺は壁に激突。

ダメージを負った感覚がする。



【被ダメージ、28】



 明らかに、そんな程度の痛みではない。

 骨身にずしんと響いたんだぞ。


 微笑む魔女。

 邪悪にして妖艶な表情。

再び、杖を振るおうとする。


 それに向かい――カプラが落ちた。

 ここまで体感9秒。やっと、落ち切った。

そして、持った盾を振り下ろす。

頭の上に構えた、鈍色の“必殺”を振り下ろす。


 穴の上、壊滅パーティが持っていた殺意。

 それを継いで、カプラが魔女へと打ち下ろす。



「死ね」



 白い光が輝く。

 カプラの盾が、魔女の寸前で止まる。

魔女が纏う、白い“障壁”に阻まれる。



【スキルの発動を感知。Eスキル――】



 このスキルは知っている。

 俺が、ドラゴンから奪ったスキルだ。

ディノーから奪ったスキル。



【【数値変換メタトロフィス、発動】】



 機械音声。

 何故か、それが重なって聞こえる。


 魔女の障壁がカプラの攻撃を阻んだ。

 それだけではなく、攻撃を跳ね返した。

そのダメージをカプラに返した。


 まずい。

 カプラの残りHPは1――



【被ダメージ:99】

 


 白目を剥くカプラ。

 それを笑う魔女。

その顔が照らされる。

恐ろしい程に美しい顔。


 その顔に対して、“もう一方”も笑った。



「舐めんなよ、魔女」



 カプラの身を包む、障壁。

 さっきの重なった機械音声。

その一方は、カプラの“発動”に対して。

カプラの“数値変換メタトロフィス”に対しての通知だった。



【スキル効果1によりHP加算、残りHP 99】



 一瞬、カプラは確かに死んだ。

 けれど、スキル発動によって――蘇ったのだ。


 受けたダメージ量分、HPを回復した。

 カプラは、ダメージ量と同じだけのHPを貰った。スキル“数値変換メタトロフィス”によって。



「そうか……」



 スキル:“数値変換メタトロフィス”はダメージを無効化しない。

 

 ダメージ量と同じだけのステータス値が貰える。

 自分が傷付くのと引き換えに、力を手に入れる。

数値変換メタトロフィスは、そういうスキルだ。


 ダメージと引き換えに、同じ分のHP値を貰ったところで意味がない。

 プラスマイナスゼロだ。


 けれど、カプラの残りHPは1だった。

 それに対して、受けたダメージが99。

所持HP以上のダメージは彼女の“死”によって無効化される。


 そして数値変換のスキルの効果には、タイムラグがあった。

 スキル効果が発動したのは、カプラが死んだ後。

一度0になったカプラのHPに、ダメージ量と同じだけの数値が加算された。


 それで、一種の蘇生が起こったのだ。



「なるほど……お前、私と同じだね?」



 障壁同士がぶつかり合い、白い稲妻が生まれる。

 カプラと魔女の攻撃スキルがぶつかり合っている。



「誰が、お前なんかと――ッ」



 凄まじい突風が吹きすさぶ。

 それが魔女のフードをめくる。

いくつも編まれた白髪の束、金色の瞳。

どこか、カプラと似た――美少女の顔。

いや、この顔は――


 その瞳が見開く。

 金色の姿が降って来るのを捉える。


 


 



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