第57話 殺したはずの。


 一つ目の巨人、サイクロプスが出現。

 次に、攻撃。



我らの敵を滅せよサコトゥーザ・スィオ



 魔女の台詞を合図に、光が放たれる。

 サイクロプスの一つ目から、紫色のレーザービームが撃ち放たれた。


 必殺攻撃だ。

 こういう攻撃には、必ず対処法がある。

冷却時間、詠唱時間、消費MP量、タイムラグ――


 バランスがあるはずだ。

 無理ゲーにならない為の、弱点があるはず。

これがゲームならば――



【Eスキル:蜃気楼パンタズマ、発動】



 自分の幻影を瞬時に3体設置。

 次に、俺が避ける。

当たる寸前で、かわす。


 レーザーが幻影に当たる。

 幻影デコイに向かって、必殺は放たれた。

狙い通りだ。


 このサイクロプス、頭が良くないとみえる。

 敵本体とデコイの区別がついていない。


 それに、あのレーザービーム。

 冷却時間クールタイムが長いのだろう。

少なくとも、連射は出来ない間隔だ。

実際、出来ていない。



「……それで対処したつもりなの? ねえ、ねえ」



 魔女が杖を振るう。

 それを合図に、彼女の周りに黒い影が出現。

影は人の形になった後、何匹かの犬へと形を成す。

何匹も、何十匹もの犬と成る。


 俺は長剣を構える。

 足の間を開き、横へと斜めに、刃を構える。

ロングソードの振り幅を最大限とする体勢。


 複数戦の準備だ。



【Eスキル:旋風の冷却時間、残り12秒】



 使えるスキルを確認する。

 “旋風”、“引力ヴァリタス”、“蜃気楼パンタズマ”、“戦闘補助ヤハタ”、“劫火フォティア”、“強奪”――“付与”。

白光イクリクス”は、冷却時間が長すぎて、今も使えない。


 カプラに付与した“数値変換”を合わせて、今まで発動したスキルは9個。

 つまり、まだ



 ――『対象βベータから、13個のスキル強奪に成功』



 俺は思い出す。

 あの時の機械音声を思い出す。

ドラゴンを殺した時の機械音声。

13個の内、強奪を除いて、使ったのは8個。


 まだ使っていないスキルがある。

 彼女ディノーから奪ったものは、あと5つ。


 目蓋を閉じて、自分の内を探る。

 そうする内に――敵が迫っている。

影の犬が飛び掛かる。

全部で20匹。一斉に。



【スキル:白星斬撃ディノーア・ステラス――発動】



 目にも止まらぬ超速の連続攻撃。

 20匹の敵を全て、一瞬にして斬る。

斬撃の跡が、光の線として残る。


 刹那の静寂、それから――



「お前……それは――ッ」



 重なる敵の断末魔。

 俺は振り返る事もなく、刃を振る。

付いた黒い血を振り落とす。


 自分の周囲、半径7メートル。

 その輪の中に入った、複数――15体以上の敵。

そんな状況下でしか使えないスキル。


 ドラゴンではなく、人にしか使えないスキル。



「それは――私が“殺した”はずのものだろうが」



 赤い瞳。

 フードの中から覗く、その眼光。

刺すような殺意。

それに、俺は刃を向ける。

突き付ける。



「やっと本気になったか」



 魔女が瞬きをして、瞳の色が変わる。

 振られる、杖。

直後――叫び声がした。


 

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