第54話 お前を、いつでも見ている。


「魔女を殺しにいく」



 キメ台詞。

 それをキメたはいいものの、どうするか。

魔女の住処への入り口と思わしき、穴。

その底は除いても見えず、どれだけの深さか分からない。


 どうやって降りようか。



「キメたはいいものの、困ってる?」

「え」

「そんな顔してたわよ」

「……バレたか」



 俺は後ろを振り返る。

 後方、大木の根のところに、荷物が置いてある。



「あの荷物は……?」

「シルフィが仲間の埋葬ついでに纏めていたヤツよ。ね?」

「ああ。死んだ仲間……と言っていいかも分かんねえですけど」



 シルフィは言葉に詰まってから、頭を振る。



「ウガノミダの皆の荷物だ。一緒に埋めるのも何だから、使えるモンは使ってやってくれよ」



 帝国ギルド最強パーティのウガノミダ。

 最強と謳われるパーティの持ち物なら、有用そうだ。

例えば、下に降りる為のロープとかもあるかもしれない。


 荷物は、全部で3つ。

 茶色い3つの入れ物に入った、多種多様な品。

その横に、見覚えのあるロングソードが立てられていた。


 俺は近寄って、長剣を確認する。



「ちゃんと回収したんだな、あの戦闘の後に」

「そうよ? 満身創痍でも、ちゃんとね」

「偉いぞ」

「へへへ……って、少年の癖に生意気な」



 俺とカプラの会話を聞いていた、シルフィ。

 彼女がカプラの傷に触れようとする。

その右肩の傷へと右手を伸ばす。



「そう言えば、その傷……やっぱり満身創痍だったんだ」



 シルフィの右手が光る。

 スキル“分魂ネウマ”を発動するつもりだ。



「ちょ……やめて」



 そのシルフィの手をカプラが振り払った。



「何で、ですか。“さっき”から言ってんでしょう。わたくしのスキルで回復した方が良いって」

「私も言ってるじゃないの。知らない人のよくも分からないスキルを浴びるなんて、嫌なの」

「知らない人……」



 落ち込む素振りを見せる、シルフィ。

 それで分かりやすく慌てる、カプラ。



「ああー、違う! その……それに! HPを消費するスキルなんて、そんなお手軽に使わせられないでしょうが」



 なるほど。

 シルフィが、カプラを今まで回復させていない、その理由が分かった。


 最初は、2人の“距離感”の問題だったのだろう。

 けれども多分、カプラは、シルフィに気を遣っているのだ。



「本当、イイ奴だよな。お前」

「うるさい!」



 カプラが迫ってきて、俺の頭を腕でホールド。

 がっちり押さえて、ヘッドロック。



「調子に乗るなぁああー」



 ヘッドロックを決めたまま、グリグリと俺の頭を拳で抉る。

 痛い。超痛い。てか、超元気だよ、カプラさん。



「いたたた……痛い痛い!」

「どうだ! 参ったか! このスケコマシ!」



 そんな俺達を、シルフィが腕を組んで見守る。

 何だ、その後方見守りオタクみたいな立ち位置。

助けろ。


 痛む頭の中。響く――機械音声。



【通知:パーティ仲間が“黒の魔人”を撃破。経験値900獲得】



 遅れてきた通知。

 黒の魔人って何だ。


 もしかして、ミノタウロスの事だろうか。

 最近、仲間が倒した強敵と言えば、ソイツだ。

カプラが殴り殺したのだ。


 という事は、"パーティ仲間"ってのはカプラか。



「うりゃうりゃあ! 根を上げろーっ!」



 今の彼女は、とても仲間には思えないが。

 そんな攻撃を仕掛けられている。



「痛いって……!」



 カプラを引き離そうとして、俺は後ろに下がる。

 その際、右足が置かれた荷物の一つに掛かった。

死んだパーティの荷物の一つ――麻布で出来た簡易的なカバン。


 そこから、一つの手帳が転がり落ちる。

 一つのページが開かれ、落ちる。


 大きく、意味不明が書かれたページ。



「――“魔女は、いつでも見ている”」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る