第53話 開け、ゴマ。


 轟音。

 揺れる地面。

いや――



「岩が揺れてる……ッ!」



 焚き火を置いた、大きな岩。

 俺達が地面にしていた、岩。

その岩が上下に振動していた。


 その岩の上、描かれた螺旋が青く輝く。

 ドラゴンと戦った岩の崖にもあった――螺旋の描かれた岩。



「……そうか。そう言う事か――ッ」



 瞬時に、俺は理解する。


 ウガノミダというパーティ。

 それが、ここで魔女に襲われたのは偶然じゃない。

ここは、魔女にとって、重要な場所だったのだ。



「入口……魔女の住処の入り口か!」

「え、何!?」



 狼狽えるカプラ。

 その後ろに白い女が立っている。

俺が殺したドラゴン。

そいつが、カプラの首に手を掛けた。


 そのまま、彼女の前に回る。



「ディノー……――ッ!」



 その名を口にすると、螺旋の青い光が更に強くなる。

 岩の揺れも大きくなり、まともに立てない。

俺は叫ぶ。



「みんな、離れろッ!」



 シルフィが即座に横へと跳ぶ。

 次にカプラ――



「おい、カプラ……ッ!」



 カプラは目を見開き、呆然と立っていた。

 呆然と前を見ている。

前に立つ幻影を見ている。

ディノーを見ている。


 いや、そんなはずは無い。

 カプラにもディノーが見えているはずは無い。

あのドラゴン娘が、カプラにも見えるなんて――



「クソッ……!」



 俺はカプラを抱いて、咄嗟に横へと倒れた。

 倒れて、ゴロゴロと転がり、岩の上から出る。


 直後、岩に描かれた螺旋の線が、岩を割った。

 間一髪。



【バッドステータス、全回復完了】



 今更な機械音声。


 それが聞こえ、俺は顔を上げる。

 岩があった位置には、大きな穴が空いている。

覗き込むと、暗闇が広がっている。

そして、水の音が聞こえる。


 ディノーは下に落ちたか。

 そう考えてから、自分で首を横に振る。

いや、違う。そんなはずは無い。

彼女は幻影だ。


 俺はどうかしている。

 “それ”を心配するなんて――



「……大丈夫か?」



 カプラに向き直り、俺は聞く。



「……うん」



 少し間を置いて、彼女がそう答えた。



「大丈夫」



 俺達のやり取りを見ていたシルフィが、また笑っている。



「……何だよ」

「いいや? 羨ましい限りですねってな」



 カプラが恥ずかしそうに、俺から離れる。

 それを見ながら、シルフィは言う。

どこか悲しげな表情で。



「本当に、羨ましい」



 そう言った後、彼女は、パンッ――と手を叩く。

 何かの仕切り直しか。

穴を覗いて、言う。



「それでどうするのですか?」

「どうするって……」



 俺は立ち上がって、シルフィの横に並ぶ。

 その横から穴を覗き込む。

穴の先には暗闇が広がっている。

そして、その先には――必ずヤツがいる。



「決まってるさ」



 俺の横に来た、カプラの顔を見て言う。



「魔女を殺しにいく」


 

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