第52話 生贄。
「それはまあ……――利害の一致って奴だな」
「利害の一致? 帝国と王国に?」
カプラが聞き、シルフィは首を横に振る。
「まさか。その二国共は戦争寸前まで行った仲だぜ?」
「じゃあ……?」
「帝国ギルドとラトゥア男爵家……わたくしが言ってるのはその二つさ」
俺は身を乗り出す。
シルフィとの距離が近くなり、カプラがムッとする。
「帝国ギルドとラトゥアに利害の一致があるって?」
黙って、頷くシルフィ。
「……山間の街、スヴァルト・モース。ラトゥア男爵はあの街を欲しがっていてな」
突如、カプラが俺との距離を詰めてくる。
横からズリズリと地面を擦ってくる。
それで、口を挟む。補足する。
「“聖者”に街を取られたって、ラトゥア男爵はそう思ってる。だから、取り返そうとしているのよ。ヤツに言わせれば、ね」
「へえ」
「誰でも知っている常識ね、街の人間なら」
「……俺は、街の人間じゃないから知らなかったけどね」
それを聞いて、カプラは少し胸を張る。
何に貼り合っているのか。
「へん!」
何だよ。可愛いな。
シルフィもそう思ったのか、笑っている。
「……で、その“常識”が、今の話にどう関係するんだ?」
「まあ聞けよ。今のスヴァルト・モースが聖者の支配下にあるのは、魔女のせいだ。あの街は魔女の森に近すぎる。だから、その魔女の脅威から守る“誰か”が必要なんだ」
魔女の脅威から守る誰か。
話の流れからすれば、間違いなく――
「聖者か。そいつらが魔女から街を守ってきた……」
「そう。その聖者共は、魔女の脅威が増すほどに、支配力を増す」
なるほど。
“聖者”なんて存在がいて、今まで魔女が倒されずに放置されている。
何故そうなっているのか、疑問だったけれど。
「強い魔女がいれば、それから守ると謳う聖者は、街の人間から支持されやすくなる」
「その通り。だから、聖者から街を盗りたいのなら――」
また焚き火の炎が爆ぜる。
パチッと宙を舞う火の粉が、岩の上の螺旋模様を照らす。
それに、向こうの木の根に立てかけられた、荷物たち。
「まずは、魔女を殺さないといけない」
「それで、ラトゥアは帝国ギルドの魔女殺しを容認しているのか」
「ああ。聖者の街を奪う為の利害の一致さ。それに森は少しだけど帝国の領土にも掛かっているんだぜ」
「へえ……初耳ね」
シルフィは口を真一文字に結ぶ。
「あの魔女は必ず殺さないといけない。放っておけば、帝国だろうが王国だろうが、構わず襲う。そんな呪いの厄種だ」
「帝国ギルド側……いや、君の理由はそれか?」
「そんな所だ。その為には“力”が必要なんだ……」
俺はシルフィの言葉を思い出す。
――『あれ……力は?』
そうか。
あの時のあの言葉、それにキス。
もしかすると、シルフィは俺達の“付与”を見ていたのかもしれない。
苦虫を噛み潰したような顔。
そんな顔のシルフィが言う。
「……あの魔女は帝国と王国、双方の街から生贄を
生贄。
それも帝国と王国から攫っている。
そんな事を、聖者たちは見逃しているのか。
「それじゃ……お兄ちゃんは生贄に――?」
カプラがそんな疑問を呟く。
その時――轟音。
地面が揺れた。
その時、白い女の幻影が見える。
笑う、ディノーが。
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