第51話 あるパーティの顛末。


「スキルを――“変質”させられた」



 スキルが変質させられた。

 件の魔女と戦った時にやられた。

この話が本当ならば、魔女は厄介だ。

魔女は厄介な能力スキルを持っている。



「魔女は、相手のスキルを変質できるんだ」

「信じられない。そんな事、出来るの……?」



 カプラが驚き、再び会話に参戦する。

 ゆっくりとシルフィの瞳を見る。

細く、赤い眼光が光る。



「出来るらしいぜ。事実、わたくしを変質させたしな」



 洗脳に、スキルの変質。

 なんてチート持ちだ、魔女は。

性能だけ聞けば、間違いなく化け物だ。

今までの情報だけならば、そうだろう。


 俺は、シルフィの話に神経を集中させる。

 まだ情報はあるはずだ。

敵の情報、殺す為のヒントが。



「アレは一瞬の出来事だった」



 シルフィが前を見る。

 視線の先には、仲間の墓。

盛られた土の山が4つ。



「何から話すべきだろうな」

「事の経緯が知りたいけどな……俺としては」



 シルフィが何をされて、スキル変質が起きたのか。

 聞きたいのは、それだけじゃない。


 どうして、森へ来たのか。

 どうやって、魔女と戦ったのか。

どうやって、仲間は殺されたのか。


 深掘りしても、楽しい会話にはならない。

 あまり触れられたくない話題だろう。

それでも、聞いておかなければならない。



「事の顛末……全てかよ?」

「ああ、全てだ。終わりから始まりまで」

「長くなるぞ?」

「俺は構わない」



 俺はカプラを見る。

 カプラはどうか、と目で問いかける。

すると、彼女は口をへの字にした。

何だ、その表情は。



「私も構わないわよ。聞くのは2回目だし」

「そうだったのか……俺が寝ている内に?」

「そうだったの。全てじゃないけど。まあそれで……ね」



 意味深にカプラが首を傾ける。

 シルフィがそれを見て、今度は口をへの字にした。


 その後、彼女の視線は盛られた土にいく。

 赤い瞳に、過去が浮かんでいる。

そのままに、語り出す。



「まずは、わたくし達が森へと入ったんだ。目的は魔女を殺す事」

「まずは……って?」

「ああ。まずは、わたくしと詠唱師のアロイスに、戦士のナータン。その3人パーティで森に入った。その話からするべきだろ?」



 は、3人パーティで森へと侵入。


 今、土の下に埋まっている死体は4人。

 いなくなった回復役も含めれば5人の集団。

つまり今回、5人パーティでシルフィ達は魔女の森へと来た。


 となれば、今話しているのは今回の話ではない。

 過去に、森を攻略しようとした時の話。

前回の話だ。それを、まずは話している。



「魔女の森に来たのは、2回目だったのか」

「危険な森に2回も来るなんて……」

「まあ、1回目に下手をやらかしたんだ。魔女と戦って――その時に、アロイスが殺された」



 焚き火の横を見るシルフィ。

 以前は転がっていた死体の一つ。

その幻を見るかの様な仕草。


 それからまた、焚き火へと視線を戻す。



「わたくしが呪われたのも、その一瞬だ。スキルを変質されたのもそう」



 シルフィは俯く。



「けど、そんな事はどうでも良かったんだ……仲間の死に比べれば」



 なるほど。

 話が見えてきた。


 危険な魔女の森に2回も入る。

 普通なら、そんな事はしないのだろう。

カプラの反応から、それが分かる。


 それでも、2回目に森へ入った。

 そんな人達がいたのなら、そこにはきっと“理由”がある。



「殺された仲間の仇討ちか……森へと2回目に入った理由は」



 シルフィが指を鳴らす。

 場違いに、軽快な仕草。

無理した様な笑顔。



「その通り」



 カプラが視線を落とすのが見える。

 他人事なのに、彼女の方がよっぽど悲しそうだ。


 カプラがシルフィを許した理由。

 その一端が見えた気がする。

シルフィの事情を聞いた上での同情。


 二人の関係性はきっと――対等ではない。



「2回目は、帝国ギルドの助力を得て、最強パーティであるウガノミダの皆と一緒に森へと入ったんだ」



 ふと、シルフィの言葉から気付く。


 帝国ギルドの助力。

 ウガノミダというパーティも、その帝国ギルドに所属している。

そして、魔女の森は王国の中にあるはずだ。

カプラの話からするとそうだ。



「なあ、帝国ギルドの助力ってのは……マズくはなかったのか?」

「どういう意味だよ」

「この森ってバテア王国の中にあるんだろ。それを隣国のレムナーヤ帝国がどうこうしようってのは……」



 シルフィの視線が右上を向く。

 俺はその仕草に、眉を顰める。



「それはまあ……――利害の一致って奴だな」

 

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