第3章▼悪魔の黄金比――その瞳を引き裂け。

第48話 正体。


 炎の散る音。

 燃え盛る音。

クラスメイトの悲鳴。



「ねえ、好きだよ」



 惨劇の中、一際鋭く美声が聴こえる。

 幻聴の様に響く。

俺はそれで目蓋を開ける。



「起きて」



 闇の中、誰かが焚き火を囲んでいる。

 5人の人影、はっきりと顔も分からない。

その中の一人が俺へと手を振る。


 炎から離れ、木の根に寄りかかっていた俺へと。



「お前の席はここだよ」



 白い髪に金色の瞳。

 その背の高い美女。

少女と呼ぶには妖艶すぎるソレ。

白いローブを羽織った女。


 ソイツは小枝で炎を掻き回す。

 片手間、横目に俺を見る。



【よく眠れたか? 我らの敵よ】



 頭の中に直接声が響く。

 女の声。このローブの女のものか。



「お前は何者だ」



 俺は起き上がり、その女の傍に行く。

 すると、女が手を止める。

パチッと炎が夜の空に上った。

いつの間に、こんなに時間が過ぎたのか。



「お前はどう思う? 私は何者だ」



 自分の黒い角を撫でて、美女は顔を傾ける。


 最初に、彼女を見たのは告白の前だ。

 カプラへの告白の前に、彼女の声がした。

俺の自問自答に割って入ってきた。



 ――『今のお前は何者だ――?』



 あの煽り文句が無ければ。

 こいつの言葉が無ければ、俺達は死んでいた。

こいつに俺達は助けられた。



「お前は俺を助けた」

「あぁ……結果的に“自分自身”を助けただけだよ」



 自分自身を助ける。

 その言葉を頭に置いて、彼女の姿を見る。

もう一度、観察する。


 白い髪、白い肌……その白い姿。

 それに黒い角、金色の瞳。

こいつは“あの敵”に似ている。



「まさか……あのドラゴンか。お前」



 そいつは答えずに笑みを浮かべた。

 邪悪な笑顔。それを逆側に傾ける。



「一応は"女庭師"……あるいは、ディノーという名がある。ずっと前に"元"へと譲った名だがな」



 俺はこいつのスキルを奪った。

 “強奪”のスキルを使って、奪い取った。


 あの時に奪ったのは、スキルだけ。

 そう思っていたが、どうやら違った。

もっと大きく、もっと尊いものの強奪。


 こいつの人格……いや、魂か。

 それを奪ってしまったらしい。



「まあ、今は私もお前自身さ。好きに呼べ」



 俺は口を押さえた。

 嫌悪感がする。

自分の中に他人がいるなんて。



「そんな顔をするな。いずれは、お前に溶け込み、いなくなるんだ。それまでの辛抱さ」



 また焚き火を突く、ディノー。

 その横に俺は座る。

嫌だが、そうせざるを得ない。

色々と聞きたい事があるのだ。



「救えない者もいる――そう言ったな」

「あぁ、言ったね」

「あれは、どういう意味だ」

「言葉のままだよ」



 ディノーは炎を見つめる。



「“我ら”がそれなのさ。怪物だから……――」



 金色の瞳を細める。

 カプラと同じ色の瞳を。



「“魔女”だから、ね」



 暗い森の葉を見上げる。

 それから俺を見る。



「呪いを振り撒く存在だ。君とは相容れない」



 貫くような視線。

 どこか、懐かしい気もする。



「"それ"を見誤るなよ」



 再度、暗転。


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