第49話 Cスキル。



 炎の散る音。

 燃え盛る音。



「ねえ、好きだよ」



 惨劇の中、一際鋭く美声が聴こえる。

 幻聴の様に響く。

俺は、それで目蓋を開ける。

夢から覚める。



「起きて」



 暗闇。いつの間にか夜。

 闇の中、誰かが焚き火を囲んでいる。

その中の一人が手を振る。

そんな再演。リバイバル。


 夢と同じ景色。

 けれども違う。

今度、俺を呼んでいるのは違う娘。

銀髪で羊みたいな美少女。



「おはようさま、カプラ」

「うん。おはようサマ、夕」



 カプラが笑う。

 邪悪とは程遠い、天使のような笑顔。


 その笑顔のまま、手招きする。

 木の枝を枕に、寝かされていた俺。

それを手招きする。



「来て」



 のこのこと、まんまと近づく俺。

 その後、頭突きがお見舞い。



「いてっ!」



 痛がる俺へと、怖い顔をするカプラ。

 それから、はぁ――とため息を吐いた。



「……これで許したげる。一応ね」



 何の事だろうか、理解出来ない。

 寝ぼけまなこを擦り、俺は起き上がる。

すると、額から冷たい布が落ちる。

誰かの“看病”の跡。



【通知。バッドステータス:疲労、回復済み】



 前と変わらぬ機械音声。

 それを聞いて、気絶するまでを思い出す。

何があり、何をされて、何をやらかしたか。



「カプラ……ごめん」



 俺の声に、カプラが振り返る。

 バツの悪そうな顔だ。



「私も……ごめんなさい」



 カプラの後ろで、シルフィが立ち上がる。

 焚き火を囲む、美少女の一人。

その灯りで、その彼女の赤い瞳が爛々と光る。


 シルフィの横、その地面には土が盛られている。

 その土の上に、小枝が4つ刺さっている。


 簡易的な墓だ。

 盛られた土の下には、多分死体がある。

壊滅したパーティのメンバーが埋められているのだろう。



「その……ちょっと気が動転していたわ」



 カプラは後ろを見て、そう言う。

 視線の先には、墓と泥だらけのシルフィの手。

俺が寝ている間に、色々とあったのかもしれない。



「とと……」



 俺は立ち上がる。

 けれども、よろける。



【バッドステータス:右足負傷による効果、歩行困難】



 またも機械音声。

 それで思い出す。

うんざりして、鼻から息を出す。


 そう言えば、足の傷はまだあった。

 戦士の攻撃を止めた時の切り傷。


 ブーツが脱がされ、俺の足には布が巻かれている。

 治療はされた様だ。



「だから、言った……のですわ」

「あなたのスキルを使わせてって? 悪いけど、まだ完全に信用した訳じゃないからね」



 また言い合っている。

 争っている。

けれど、まだ殴り合いの喧嘩になっていない。

本当に、俺が寝ている間に何があったんだろうな。



「でも、やった方がいいんだ……やりましょう」



 後半はともかく、男らしい言葉遣い。

 とても金髪美少女シルフィから出て来るモノとは思えない。

というか、最初の方は取り繕っていた様な気がするけど。


 シルフィが二歩、前に出る。

 次に、右手を掲げる。



「動くなよ、少年」

「え……ちょっと!」



 シルフィの右手から黒い霧が出る。

 それが俺に纏わりつく。

この霧は――



【Cスキルを検知――】


 





 



 


 

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